文・光瀬憲子

 雨の似合う街というのがある。

 旅先で雨に遭うとがっかりしてしまう人は多いだろう。写真は撮りづらいし、移動も何かと不便だ。でも雨だからこその出会いもある。私にとって西台北の艋舺(バンカ)はそんなところだ。

 そろそろ傘をさそうか、と思うぐらいの霧雨の中、霞がかかったような景色に浮かび上がるくすんだ橙色。清水厳祖師廟という古い廟だ。

 

 

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雨の夜。艋舺、清水厳祖師廟

 ここは映画『モンガに散る』(原題『艋舺』)という70年代の台北を舞台にしたヤクザ映画のロケ地にもなったことがある。あまり目立たない、観光客などほとんど訪れない廟だが、散歩がてらお参りをする地元の人や、境内の居酒屋で1杯引っ掛けようとやってくる飲ん兵衛たちの憩いの場だ。

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日中、清水厳祖師廟の前で手を合わせる人。右手の「祖師廟口自助餐」は地元の飲兵衛が集まる風情ある大衆酒場だったのだが、2年前に閉店してしまった
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「祖師廟口自助餐」では雨を眺めながら保力達(パオリータ)をなめるのが楽しみだった。隣の「牛肉大王」は健在なので最近はそっちで飲んでいる

 現在、日本で上映中の映画『台北暮色』にも艋舺辺りの風景が写り込んでいる。台湾映画界の巨匠と言われるホウ・シャオシェンの弟子(女性)の監督デビュー作だ。大都会台北を舞台にしつつもどこかせつなく、懐かしい景色が印象的なのは、艋舺の西側を流れる淡水河のせいかもしれない。

 

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映画『台北暮色』の一場面。艋舺の西側を流れる淡水側沿いの環河快速道路から中興橋を渡り板橋方向へ向かう車群
写真提供:A PEOPLE CINEMA http://apeople.world/taipeiboshoku/

 台北の東側にデパートやシネコンが続々とオープンし、いっときは時代遅れの街のように見られた西側だが、ここ数年は台北市観光局による働きかけや、若手アーティストたちによるリノベーションが進み、魅力的な街として再び脚光を浴びている。