文・写真/室橋裕和

 

「太田も大泉も夜っすよ!」

 そう教えてくれたのは地元民のNさんだ。群馬県南東部の太田・大泉といえば北関東を代表する移民タウンとして知られているが、その歴史は古い。1980年代から、この地域にある自動車産業をはじめとする製造業の現場では外国人の労働力に頼ってきた。とくに90年代から日系人の受け入れを始めたことで、日系ブラジル人や日系ペルー人が急増。太田も大泉も一気にラテンの様相を帯びるようになった。

 だからこのあたりでは南米のレストランや大型スーパーやカフェやベーカリー、送金会社、外国人相手の派遣会社などが点在していて巡り歩くのがなかなか楽しいのだが、そういえば来るのはいつも昼だった。大泉に住む日本人のNさんは、

「夜の街を見て回ってこそ、外国人コミュニティの姿がよくわかる」

 と熱弁し、おすすめスポットを教えてくれるので、それならばと僕は大泉町ただひとつのビジホ、その名も『エンペラー』に宿を取り、ナイトツアーを敢行することにした。

■アマゾン料理&アフリカルーツの移民料理

 老朽化が進んではいるものの部屋は清潔で、スタッフの方も優しく親切な『エンペラー』に荷を解く。ここは愛知県や静岡県などほかのブラジル人集住地域から遊びにやってくる人々が泊まる宿でもあるようだ。

「遠距離恋愛のブラジル人同士がここで会うこともあるって聞きましたよ。浜松とか豊橋から出てきて、大泉の恋人に会いに来るんです。で、のちのち結婚してできた子供に『アンタはエンペラー産なんだよ』と教えるとか」

 本当はどうかは知らないが、いかにもラテンのオープンなファミリーらしい話をNさんが開陳する。

 まずは腹ごしらえだろう。とはいえ街で人気のブラジル・ペルーの店はだいたい行っている。どこか目新しいところを……とNさんに相談したら、教えてくれたのは『ベレン・パイ・デグア』というレストラン。ブラジルの中でも北部パラ州の郷土料理を出すのだという。

 ちょっとおしゃれなファミレスといった感じの店内では、ブラジル人のカップルやファミリーが楽しげに食事をしていて、なかなかいい雰囲気だ。せっかくなのでパラ州伝統のものを……と頼んでみると、おすすめだという2品が登場した。どちらもカレーのようだが、真っ黒いのはキャッサバの葉と豚や牛のモツを煮込んだ「マニコバ」というもの。こちらはアマゾンの先住民が起源だそうだ。

 もうひとつ黄色いのは「ヴァタパ」といってエビのココナツミルク煮だが、そのルーツはアフリカにある。16世紀に西アフリカから奴隷として南米に来た人々によってもたらされた。いわば移民料理なのだが、それを今度は日本に渡ってきたブラジル人がこの街で提供しているというのが面白い。どちらも濃厚でなかなか美味しかった。

『ベレン・パイ・デグア』のマニコバとヴァタパ。白いキャッサバ粉を混ぜるのもおすすめだとか