文と写真/田島麻美

 

 イタリア各地の海、山、街にツーリストがあふれ、いよいよ夏のバカンスシーズンが本格的に始まった。5月から異常な猛暑が続いているのだが、バカンスを諦めることなんて考えられないとばかりに、人々はこぞって屋外に繰り出している。家の中でじっとしているのが息苦しく思えてきたが、かといってツーリストでごった返している街中に出ていくのも気が引ける。どこか静かなところで気分転換したいな、と思っていた矢先、友人から「週末、トスカーナへ行くけど一緒に来ない?」と誘われた。渡りに舟とはまさにこのこと! 久しぶりの週末旅行に心躍らせながら、いそいそと車に乗り込んだ。車窓を流れる葡萄畑や牧草地の緑が眩しい。のんびりと草を食む羊の群れに頬を緩ませながら3時間ほどのドライブを楽しんで、目的地のサンセポルクロに到着した。

 

10世紀からの歴史を持つサンセポルクロ旧市街の入り口フィオレンティーナ門 

 アレッツォから東へ約35km、トスカーナとウンブリアの州境にあるサンセポルクロは、ルネッサンス絵画の巨匠ピエーロ・デッラ・フランチェスカの故郷として知られているのどかな中世の街。現代においては、世界中にシェアを持つパスタ「ブイトーニ」の本拠地として有名になった。人口1万5千人ほどの小規模な街だが歴史はとても古く、10世紀にパレスチナから聖遺物を持ち帰った2人の修道僧が、この地に聖遺物を祀る礼拝堂と修道院を建てたことから「サン・セポルクロ(聖なる埋葬地)」と呼ばれたことが街の名前の由来となった。以来、中世からルネサンス期にかけては近隣の大貴族や法王庁の支配下におかれ、各地から巡礼者が訪れるカトリックの重要な巡礼場所として発展してきた。

 





こじんまりとした目抜き通りヴェンティ・セッテンブレ通り。地元住民や近隣の街から訪れる人たちは皆顔見知りらしく、通りのあちこちで立ち止まっておしゃべりに興じていた(上)。中世、ルネサンス、近代とさまざまな時代の建物が組み合わさった街並みは歴史の足跡を感じさせる(中・下)