同じ路線でありながら、異なる印象を与えてくれる区間がある。まるで支線のようなあつかいであり、直通列車もあるにはあるが違う形式の車両が走っていたりもする。南海高野線の橋本駅~極楽橋駅間がそれだ。

 これまでにも紹介した通り、高野線は難波駅から極楽橋駅をつなぐ路線である。極楽橋駅から高野山駅まではケーブルカーに乗り換えなければならない。しかし、乗り換えは極楽橋駅だけではない。橋本駅でも、その必要がある。

 たしかに、難波駅から極楽橋まで直通列車は存在する。ただし、そのほとんどは全席有料座席特急「こうや」くらいのもの。そのほかは河内長野駅か林間田園都市駅、そして橋本駅までだ。そのため、通常の各停や急行で極楽橋駅まで行こうとすれば、橋本駅でいったん降車しなければならないのだ。

 その理由としてあげられるのは、連続する山岳地特有の大きな勾配や急カーブ。通常の車両では耐えられないのである。その勾配は50パーミル(1000メートル進むあいだに50メートル登る)、カーブの半径100メートル以下。「登山鉄道」と呼ぶにふさわしい。

 さらに、橋本駅から極楽橋間は単線となる。これらのようすは「別の路線」といいきってしまってもいいほどで、南海電鉄も「こうや花鉄道」という愛称をあたえている。

 実際、橋本駅を出て紀伊清水駅を通り、学文路駅を過ぎるころになると、山腹に沿った線路はウネウネとカーブを描き、電車はスピードダウン。線路と車輪のこすれる音が、キーキー、キーキーとかなり耳につく。

 九度山駅に高野下駅を通過すると、いくつものトンネルをくぐり抜け、より山の奥深くへ。このトンネル、昭和初期の開通時のままなのかレンガ造りとなっていて、場所によっては壁に照明がもうけられているので、その様子がうかがえる。

 下り進行方向(極楽橋行き)の右側には、断崖の下に広がる木々の緑や眼下に流れる不動谷川の風景がひろがる。ただ、この光景を楽しもうと思えば、ベンチシートの場合は左側の席に座る必要あり。右のベンチシートなら体をねじって見るという方法もあるけれど、首の関節が痛くなるので要注意だ。
橋本駅から約40分で極楽橋に到着。距離は約20キロなので、いかにゆっくり走っているのか、おわかりいただけるであろう。

 そんな「こうや花鉄道」には「秘境駅」とよばれるところもある。「紀伊神谷駅」である。まさに「山の中にあるポツンと一軒家」というロケーション。周囲に人家はなく、なぜこの駅がつくられたのかが不思議に思えるほどだ。

 そのほかにも特徴のある駅は多く、紀伊清水駅、学文路駅、九度山駅、高野下駅、下古沢駅、上古沢駅、極楽橋駅、高野山駅、そして紀伊神谷駅も「近代化産業遺産」に指定されている。つまり、橋本駅を除く「こうや花鉄道」のすべての駅が近代化産業遺産ということになる。

 路線の近くには山中を歩くハイキングコースもあり、高台にある駅から見下ろす集落の展望は、まさに絶景。九度山には真田幸村にまつわる名所・名跡もあり、高野下駅ではホームに「南海思い出ミュージアム」が設置され、駅舎ホテルもある。

 大手私鉄の主要路線の一部とはいえ、ローカル線といっても過言ではない。「こうや花鉄道」。願わくは、駅めぐりや周辺観光のために、この区間だけ有効な一日乗車券を発行していただきたいものではある。