前回に続き、私の事務所の日本人スタッフが全羅南道を食べ歩いたレポートをお送りする。この地は食材に恵まれ、料理の技術も発達しているが、実はそれ以外の要素、全羅道訛りでいうコシギ(something)が重要であることをみなさんにもわかっていただきたい。

 

 

生涯忘れられない朝ごはん

 康津郡のファームステイ先では6時ごろ目が覚めた。窓の外は朝霧に包まれている。カメラのファインダー越しに眺めていると、少しずつ山の稜線が明確になってくる。ステイ先のご主人は私より早起きして畑の雑草を取っている。その脇には大きな甕がいくつも並んでいる。中では醤油や味噌の熟成が進んでいるはずだ。早くも朝食に対する期待がふくらむ。

ファームステイのホストファミリーであり、味噌や醤油の工房でもある『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』のお宅の前の畑。こちらの家族が土と親しむ暮らしを始めたのはご主人(写真左)が体を壊したことがきっかけだったという

 

 片時も私たちを放っておかない奥様が外に出てきてくれた。庭に置かれた大きなブランコに一緒に乗る。奥様が特に少女趣味というわけではない。韓国の観光施設にはよくある小道具だ。地方のリゾートホテルでも見たことがある。昨晩のおしゃべりの続きを楽しむ。

ステイ先の庭にしつらえられたブランコを揺らしながら朝のおしゃべりタイム
朝食の主菜や副菜をテーブルに並べてくれる奥様と、それを手伝うご主人

 朝食の主菜はプルコギだった。朝から牛肉!と驚くなかれ。韓国ではたいせつなお客さんをもてなすときに欠かせない一品だ。ありがたくいただく。手づくりの味噌で漬けこまれた牛肉はふわっとやわらかく、朝食としてまったく違和感がない。惜しみなくかけられたネギは甘味が強く、さわやかな香りが味噌の旨味を引き立ててくれる。

 そして、プルコギ以上に印象的だったのが、手づくりの醤油に漬けた海苔だ。日本では韓国海苔は人気のあるみやげのひとつだが、なかでも全羅南道は質の良いものを産することで知られている。

 醤油をたっぷり吸ってぬらぬらと光る海苔を、ごはんにのせる。ただの白米ではなくおかゆ、しかもアワビと野菜入りだ。醤油が流れ出し、おわんとおかゆの間にたまるが気にしない。海苔でおかゆを包んで口に運ぶ。醤油にはとがったしょっぱさがまったくない。大豆の幸せな匂いが広がる。体にいいものであることが直観的にわかる。アワビは細かく刻まれているにもかかわらず、昨日で移動した莞島(ワンド)の磯の香を思い出させる。海の滋味と山の滋味をひと口で感じることができる。なんというぜいたく。すみません、おかゆのおかわりをください!

 


『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』の朝食。主菜のプルコギ(牛肉のすき焼き風)

『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』で供されたおかゆ、そして海苔の醤油漬け