半島の南西部に位置する全羅道は、食べものが美味しいことで有名だ。韓国好きの日本人なら、ビビンパなどで有名な全羅北道の全州を思い出すかもしれないが、忘れてはならないのが南半分の全羅南道だ。そこで、今回から数回に渡り、私の日本の事務所のスタッフが南道の美食地帯を食べ歩いたレポートをお送りする。

 

愛は惜しみなく与う 韓国版“満漢全席”

 韓国料理は主菜にたくさんの副菜(パンチャン)が添えられることでよく知られているが、全羅道はソウル釜山とは比べものならないくらい副菜が多彩で豪華だ。

 その理由のひとつに食材が豊富なことがある。西側と南側が海に面し、しかも干潟が残っているため滋味深い海産物に恵まれている。そして、土が肥えているため農産物が豊かで、韓国一の穀倉地帯と呼ばれている。

 また、農耕文化が発達していたこの地ではドゥレ(相互扶助組織)やプムアッシ(互いに農作業を手伝う制度)などが盛んだった。こうした共同体文化が、豆ひとつでも分け合って食べるという分かち合い文化を生み、それが後の食による豊かなもてなしにつながったともいわれている。日本で韓国料理店を営んでいる全羅道出身者を何人か知っているが、共通しているのは従業員のまかないにとても気をつかっていることだった。

 “南道は惜しみなく与う”。木浦の海鮮料理店で、どれが主菜なのかわからなくなるほどの刺身類を見て、あらためてその思いを強くした。

 

木浦の海鮮料理店『黄金漁場(ファングム・オジャン)』の刺身フルコース

慣れることは愛すること

 日本には、韓国料理通を気取っているくせにエイ料理だけは苦手という人が少なくない。そういう人たちの見識を疑ってしまう。隣国とは言え、海の向こうにある食べものだ。ひと口食べただけで良し悪しを判断しようするのは不遜である。横着過ぎる。ファストフード化が進み過ぎた弊害だろうか。

 初めてエイの刺身(ホンオフェ)を食べたとき、驚いたのは噂の発酵臭(アンモニア臭)ではなく、軟骨の通った身の固さ、食べにくさだった。しかし、それは刺身ではなく、蒸し煮(ホンオチム)を選べば解消できる。骨から身を簡単に外すことができるのだ。

 ネットの世界ではこの十数年、エイを世界三大悪臭料理のひとつだと囃し立て、ゲテモノ扱いしている人が目立つが、エイを何度か味わった日本の人の多くが、「きついのは匂いではなく、むせかえるような揮発性の刺激」と言っている。食べなれてくると、この刺激が恋しくなり、刺身や蒸し煮、鍋(ホンオタン)よりも刺激が強い天ぷら(ホンオジョン)を選ぶまでになる。

 過去、エイの本場といわれる黒山島(フクサンド、全羅南道新安郡)で食べたものは、発酵が進み過ぎたものではなく、そのもちっとした食感とともに美味しくいただけたし、今回、木浦や康津で供されたものも匂いや刺激だけでなく、魚としてしっかり味わうことができた。

 どうしてもそのままでは食べにくいという人は、茹でた豚肉と酸っぱいキムチでエイ刺身を挟んでひと口で食べ、そのあとマッコリを飲めば、南道の食の真髄に近づけるだろう。

 

木浦の人気店『忍冬酒(イントンジュ)マウル』のエイの刺身(ホンオフェ)。左上が茹で豚。左が酸っぱいキムチ。