文/チョン・ウンスク

 

■円熟の名優ソル・ギョング主演映画の舞台

 日本で劇場公開されたばかりの『キングメーカー 大統領を作った男』の主演ソル・ギョングが、俳優人生で初めて知的に枯れた男を演じて高く評価された映画『茲山魚譜 チャサンオボ』(2021年、イ・ジュニク監督)。今回もその舞台である全羅南道西側海上の島々の魅力をお伝えしよう。

 物語の舞台は本土からで2時間弱の黒山島(フクサンド)だが、撮影は船で1時間弱の都草島(ドチョド)や飛禽島(ピグムド)、慈恩島(ジウンド)で行われた。

 これらの島々は多島海海上国立公園と呼ばれ、この十数年の国内旅行ブームで訪れる人も増えている。

黒山島の北部、象羅峰から西方向を望む

■兄は黒山島へ、弟は康津へ

『茲山魚譜 チャサンオボ』の主人公、丁若銓(チョン・ヤクチョン)は王の命によって黒山島へ流された。ときは1801年、朝鮮王朝時代後期。当時の木浦は最果ての地に等しかったので、そこから帆掛け船で1週間もかかる島へ流されるということは、「死ね」と言われているのと同じだった。

 それでも、彼は希望を捨てることなく、チャンデ(ピョン・ヨハン)をはじめとする島の人々の力を借りながら、海洋生物の観察と記録にいそしみ、やがて海洋生物事典「茲山魚譜」を書きあげる。

 一方、丁若銓の弟、リュ・スンリョン扮する丁若鏞(チョン・ヤギョン)は全羅南道の南の端、康津(カンジン)へ流された。こちらは木浦よりさらに南にあるが、兄が流された離島と比べれば、都(ソウル)まで地続きという意味でまだ救いがある。彼はこの地で500冊もの本を書き綴った。

 劇中、兄と弟が違う場所で同じ月を見ながら、たがいを思慕する歌を詠む場面は、韓国映画史上、屈指の名シーンだ。

黒山島の玄関口、曳里港から島の内部に入ると、韓国の70~80年代そのままの風景や人々に出会える

 なお、本作で兄と弟を演じたソル・ギョングとリュ・スンリョンだが、この二人、同じイ・ジュニク監督作品『熱血男児』(2006年)でヤクザの義兄弟を演じている。このときはリュ・スンリョンが兄貴分で、ソル・ギョングが弟分だった。

実際に丁若銓が流配生活を送った沙里の村