文/下川裕治 写真/中田浩資

 

 一時期、僕の家族の夏休みは、いつも宮古島だった。子供が小学生だったから、20年以上前の話だ。

 その頃、宮古島のオバァ食堂は全盛期だったように思う。全盛期というのは、オバァはオバァの年齢になっていたが、まだ元気で店を切り盛りしていたという意味になる。

 沖縄のオバァ食堂が、観光客の間で人気を集めていくのは2005年頃からだ。宮古島のオバァ食堂全盛期は、その少し前ということになる。

 毎年、宮古島に滞在しているから、宮古島の知り合いが増えていく。彼らと昼食というと、だいたいオバァ食堂だった。そう、彼らはオバァ食堂が好きだったのだ。店を切り盛るオバァは実にチャーミングだった。いつも笑顔を絶やさなかった。

■宮古島のオバア食堂とは?

 宮古島のオバァ食堂のなかで、最も有名になったのは『よしこ食堂』だろうか。僕もここでジューシーや天ぷら、そばをよく食べた。

 やがてこの店は伝説の域に入っていく。そのとき、必ず出てくるのが、こんな会話だった。

 客「よしこオバァ、そばのスープに指が入ってるよ」

 よしこ「オバァは熱くないよ」

 宮古島の人たちは、本土からやってきた観光客から笑いをとろうと、こんな話をしたのだと思う。それがいつの間には広まり、『よしこ食堂』というとこの話が前振りになっていったような気がする。

 僕が毎日のように『よしこ食堂』にいっていたとき、こんなシーンには出合わなかった。この食堂はどちらかというと店内も古く、畳もところどころがけば立っていた。よしこオバァは、年齢なのか、性格なのか、客が食べ終わった丼や皿をあまり片づけなかった。テーブルの上には、いつも前の客が食べ終わった器があり、それをよしこオバァに渡し、テーブルを拭くのは客の担当だった。

 それでもオバァは人気だった。たしかに「オバァは熱くないよ」と笑って受け流す雰囲気をもっていた。