この夏、7月28日から8月3日にかけて、ミラノとカナリア諸島で開催された現代アートの国際エキシビション『Orizzonti Trasversali』に招聘され、作品を出展した日本人アーティスト・田中雅(たなか・みやび)さん。実は田中さんと私はかれこれ25年以上も前からの知り合いで、私が東京で働いていた頃は、カメラマンとライターとしてお仕事をご一緒させていただく機会も多かった。当時すでに大御所と呼ばれるほどの写真家であった田中さんだが、この夏、久しぶりに近況を知った彼は「現代アーティスト」というもう一つの顔を持っていた。しかも、ミラノのギャラリーから国際展示会への出展を要請されるほどのアーティストである。田中さんのこの華麗な変身に喜びと驚きを隠せなかった私は、夏休みの帰省の機会を利用して、彼にインタビューを申し込んだ。日本からイタリアを経由し、全世界に広がっている彼のメッセージと作品制作の意図について、お話を聞かせていただいた。

 

——今回、ミラノのデジタル複合現代アートのギャラリー「M.A.D.S.」が主催する国際展示会へ出展されたと伺いました。そもそもどういうきっかけで作品を制作し始めたんですか?

田中:きっかけとなったのは、ウクライナ人の若い女性インスタグラマーなんです。2月の12日だったかな、何気なくフォローしていた彼女が突然、意味深な画像をアップしたのを最後に姿を消してしまった。それまでは、食べ歩きとかファッションとかメイクとか、ごくごく普通の女の子の日常生活について画像をアップしていたのに、いきなり今までとは全く違う画像がアップされて。それから「戦争になる」というダイレクトメッセージが届いた。最初は、え?何が起こってるの?と思っていたら、その十日後ぐらいにロシアのウクライナ侵攻が始まった。彼女はそれ以前の投稿を最後に姿を消していたんだけど、あれは危険が迫っているということでいち早く避難したんだ、と後になって思い至った。

 実際に戦争が起きてしまって、少なからず、自分と関わりのある人が避難をした。自分が知っているウクライナの女性が、リアルな戦争に巻き込まれている。その現実にすごくショックを受けたし、それを知ったからには何かをせねばならない、と強く感じたんです。でも、じゃあ何ができるのか?と考えた時に、せっかくインスタグラムで知り合った子でもあるし、インスタグラムでメッセージを発信しようと思ったんです。最初は写真を撮って毎日、というのも考えたけどちょっと荷が重いので、じゃあイラストとかコラージュとか、何か自分ができることをやろう、と。その代わり、「毎日発信して、毎日戦争反対を訴えよう。これが今唯一、自分にできることかもしれない」と思った。それから毎日インスタグラムで反戦、平和のメッセージを発信するようになったんです。

 

日本から世界へ、人間性の本質を問うメッセージを広め、アーティストとして更なる飛躍を続ける田中雅さん。


 
——写真家としてのキャリアは十分に存じ上げていますが、イラストも手がけるとは知りませんでした。以前から絵は描いていたんですか?

田中:いや、全く(笑)。イラストを描いたのは初めて。だから最初のうちはコラージュしかできなかった。最初は画像で発信していたんですが、そのうちフォロワーがじわじわと増えてきて、だんだんと手の込んだ作品を作るようになっていった。幸か不幸か、それが原因で毎日発信することが難しくなってしまったけれど、今も週に2回のペースで発信を続けるようにはしています。

 自分の作品には必ず、「戦争反対」「平和にチャンスを!」というメッセージと、さらには「なぜ戦争が起こるのか? 人間はなぜ戦争を起こすのか?」という人間の本質を問うようなメッセージを一言、書き加えて発信しています。人間というのは、数千年も前から現在まで、絶えず戦争をしている。例えばヨーロッパでは、「隣国が攻めてくる」という意識が当たり前のようにある。隣国を「必ず攻めてくる敵」と見なさなければならないような世界というものを、今回のウクライナ侵攻をきっかけに再認識した。そんな世界に、何か、一石を投じることはできないのか? 何か僕たちにできることはあるのではないか、という人間性に対しての投げかけをしたいと思ったんです。

 

『平和にチャンスを!』(2022年2月25日)。ウクライナ侵攻が始まった翌日に発信された最初の作品。