写真家としてファッション誌のカバーやグラビアをはじめ、数多くの媒体で第一線で活躍する一方、現代アーティストとしてミラノのギャラリーから国際エキシビションへの出展を招聘された田中雅(たなか・みやび)さん。写真、イラストという技法の垣根を超えて、より強く広く、世界に向けたメッセージを発信し続けている。

ロシアウクライナ侵攻をきっかけに、SNSを通じて「反戦、平和、人間性の本質の再考」というメッセージを連日発信し続けているアーティスト田中雅さん。日本からイタリアを経由し、全世界に広がっている彼の活動とその意図を探るインタビュー第二弾!

 

 

ー夏にミラノとカナリア諸島で開催されたミラノのギャラリー「M.A.D.S.」が主催する国際エキシビションに出展後、年末にはバルセロナにあるガウディの傑作建築カサ・ミラのラ・ぺドレラで開催されるイベントにも出展が決まったそうですね。キャリアの長い写真家としての活動よりも現代アーティストとしての活躍の場が広がっているようですが。

田中:写真は最近あんまり撮ってないから(笑)。カメラマンって、昔は「写真家」と呼ばれたじゃないですか。文字通り、「真を写す」というのが写真だったわけですが、今ではいくらでも加工できるものになってしまった。僕に言わせれば、それはもう「写真」ではない。真を写すものが写真ではなくなってしまった今、では「真を伝えるツール」として一体何があるのか?そう考えていくと、写真もイラストレーションも同じなわけで、であればイラストレーションの方がもっと自由度が高く、メッセージ性も強く打ち出せる。加工しまくりの嘘くさい写真よりも、もっと誇張した想いの塊のようなイラストの方が、メッセージを直球で訴えられるのかな、と思ったわけです。
もちろん、これからはイラストで全ての活動を、とは考えていないけれど、今は表現というものの垣根が全て曖昧になっていて、写真でも動画でも全部垣根が低くなっている。どれがどれなのかという区分けをする必要がなくなってきているし、そもそもその「区分け」というのは必要なのかな、と僕は思うんです。だから、アートとか写真、動画という技法で分けるのではなく、むしろ何か自分を打ち出すメッセージ性の強いものが「アート」で、日常的に食べたものなんかを発信するのであれば、その技法が写真であってもイラストであってもそれは「記録」というジャンルになる。そのような新しい分け方がこれからは必要になるんじゃないかな、と僕は考えています。

『本当のことを教えて! 〜私はテレビを見過ぎていたの?〜』(2022年9月16日)。ウクライナ侵攻が始まった2月から、インスタグラムを通じて田中さんが定期発信しているイラスト&メッセージ。制作活動は現在も続いている。

ーパンデミックがあって、ロシアのウクライナ侵攻があって、私たちがそれまで知っていた世界とは全く違う世界が突然現れた、という印象があります。今、世界中の人たちが、新しい価値観やそれまでの既成概念が通じない日常に向き合っている。日々を生きることそのものに対する不安を抱えて揺らいでいる人たちがたくさんいるように感じます。

田中:そう、だからこそ傍観していてはいけない。何か石を投げかけなければ。
今から10数年前だったかな、僕は近い将来必ず食糧危機が来ると思ったんです。実際、現在世界的に深刻な食糧危機が訪れているんですが、10数年前に食糧危機への警戒感をヒシヒシと感じた時、このままではいけない、何かをしなければと思って、僕は一人で「地球防衛軍」という名目の活動を始めました。それは世界中にある使われていない農地を再生しよう、というプロジェクトで、それぞれの土地に即した作物を収穫し、それを使って高価に売れるものを作るというもの。その第一歩として、大宮と厚木で使われていない農地を借り上げてバジルペーストを作り始めたんです。

ーバジルペーストで地球を防衛しよう、とはかなりユニークなアイデアですね(笑)。地球防衛軍の活動は今も続いているんでしょうか?

田中:地球防衛軍の活動は、現在はイラストを描くことに徹しておりますが(笑)。でも、その第一作となったバジルペーストの商品を最初に試食してくださったのがオノ・ヨーコさんだったんですよ。当時、とある雑誌のインタビュー撮影でオノ・ヨーコさんを撮影させていただく機会があって、その時に担当の方から、「よろしければ地球防衛軍のバジルペーストを持っていらっしゃいませんか?」と声をかけていただいたんです。それで、「よし!じゃぁ持って行こう!」と思って、撮影の後でオノ・ヨーコさんに差し上げたんです。その時、オノさんに「あなたはカメラマンなのになぜ、こんなことをなさっているの?」と訊かれて、「実はかくかくしかじかで、地球のために何か自分ができることをしようと思って作ったんです」と。するとオノさんが、「ふーん」と言って一瞬沈黙した後、「あなたはね、静かな湖面に小石を投げたのよ」と言って下さった。「いいんじゃない、それで。あなたはもう何もしなくても、その投げた小石の波紋は遠くまでわーっと広がっていくと思いますよ」と。その言葉がとても胸に刺さって、その言葉のおかげで今日まで頑張ってこられたんです。