日本の原風景といえば、山があって田畑のひろがる景色を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。そんな風景を堪能できるのが奈良駅と大和高田市の高田駅を結ぶJR桜井線、通称「万葉まほろば線」界隈の三輪地区だ。

 この三輪地区の景色をあえて原風景というのは、ほかにもわけがある。いまから約2600年前、日向国(現宮崎県)から東征してきた神武天皇は、奈良県の畝傍の地で即位し王朝を築いたとされてきた。ただし、これはあくまでも伝説であり、初代神武天皇とそれに続く9代開化天皇までは実在しなかったというのが考古学では定説となっている。

 ならば初代天皇はだれなのか。重視されている1人が第10代崇神天皇だ。崇神天皇は「ハツクニシラススメラミコト」とも呼ばれ、これは神武天皇も同じである。これにより、崇神天皇を初代だとする説を唱える考古学者もいる。そんな崇神天皇が皇居を構えたとされるのが磯城瑞籬宮(しきのみずかきのみや)で、伝承地は桜井市金屋の神社。陵墓も天理市の行燈山古墳に治定されている。

 ただ、古代の天皇については実在や即位について諸説があり、また皇居の位置や陵墓の埋葬者に関しても確定はされていないものが多い。そのため、崇神天皇が実在し、また現在までの皇統とつながりがあるのかは明らかでない。
 とはいえ、桜井沿線には行燈山古墳の属する柳本古墳群や大和古墳群、纏向古墳群があり、いずれも古墳時代前期(3世紀後半~4世紀前半)の古墳群だ。ちなみに世界遺産に登録されている百舌鳥・古市古墳群は、4世紀後半から5世紀後半に築造された古墳が多い。さらに桜井線巻向駅に近い纏向遺跡は2世紀末ごろから3世紀にはじまる遺跡であり、この地が邪馬台国だったとする説もある。
 つまり三輪地区は、その後のヤマト王権とのかかわりが深い土地だと考えられ、ひょっとしたら王権の発祥の地かもしれない。大神神社や大和神社、石上神宮といった日本最古級の神社が鎮座することでも、そのことをうかがい知ることができる。すなわち、桜井沿線は日本国発祥の地であり、その風景こそが日本の原風景といえなくもないのだ。

 そんな景色を楽しむのには、山の辺の道がうってつけだ。山の辺の道は桜井線の桜井駅から三輪山のふもとを通り奈良市内へ至る、記録上は日本最古とされる道だ。全行程は約16キロ。その間には古墳群をはじめ、仏教公伝の地といった史跡や神社仏閣が点在。とくに神社は大きなものから小さなものまで数多く鎮座し、お賽銭で小銭がなくなってしまう可能性も大だ。
 さらに、春にはサクラやモモ、ウメ、フジの花が咲き、初夏にはミカンの花がジャスミンのような香りを漂わせる。イチゴのハウス栽培もおこなわれていて、実のなる季節はビニールハウスから甘い香りを運んでくれる。夏の深緑、秋の稲穂。歴史に信仰、自然も満喫でき、まさに「日本」を感じ取ることの出来るのが桜井沿線なのである。