文/光瀬憲子

 

 異国に到着して、空港の自動ドアをくぐり現地の空気を吸うと、いよいよ旅の始まりという感じがしてくる。肌寒かったり、じめじめしていたり、空港から一歩外に出たときの感想はさまざまだ。

 それに加え、異国を感じる要素に「看板」がある。たとえば空港のそばのビル壁面の大きな看板だったり、バス乗り場の行き先案内看板だったり。英語圏の場合はアルファベットが並んだ看板がやけにカッコよく見えたりするし、韓国なら丸や四角を組み合わせたハングルの看板に戸惑ったりする。漢字圏の台湾では、「飯店」や「洗手間」といった馴染みのある文字に、日本人の誰もがホッとするだろう。

台南グルメストリート、国華街。通りにせり出し競い合うかのような看板群

■看板屋さんの看板「招牌(ジャオパイ)」

 台湾で暮らし始めた90年代、私は台北市内の目抜き通りの看板群に圧倒された。今でもあまり変わらないが、大きな漢字の看板が重なるようにして目に飛び込んでくる。英語がたくさん混じっている日本の看板に比べると、台湾の看板はすべて漢字で、しかも派手な赤やオレンジがふんだんに使われていている。

 そんななかに「招牌(ジャオパイ)」と書かれた看板をよく見かけ、当時の夫に意味を尋ねたことがある。すると「看板という意味だ」と言う。看板という文字が書かれた看板。そう、「看板屋さんの看板」なのである。

 台湾には看板屋さんがとても多い。理由は、店の入れ替わりが激しいからだと教えてもらった。実際、台湾に何年も暮らしてみると、特に飲食店は閉店と開店を繰り返し、そのたびに真新しい看板を取り付ける光景を何度も見かけた。景気がいいと、台湾の看板屋はさぞ儲かるに違いない、と思ったものである。

台南にある、赤い大きな看板の大衆食堂。縁起のよさそうな色と店名につられてか、この店は客足が途絶えることがない
高雄のレトロモダンな街、鹽埕(イェンチェン)の通りに整然と並ぶ看板。昔から外国籍のが多く着岸した街は、看板もどことなく洗練されている
逆に看板らしい看板を持たない店もある。台南の芋のおやつを売る小さな店には、店名が書かれた看板がなく、メニュー2品が書かれた看板のみだった