韓国ドラマを見ていると、登場人物が家の保証金トラブルに巻き込まれるエピソードがちょくちょく出てくる。

 例えば、新作『いつかは賢いレジデント生活』がNetflixヒット中の人気シリーズ『賢い医師生活』では、胸部外科レジデントのト・ジェハクが、不動産仲介業者に借家の保証金2億ウォンをだまし取られ、そのショックから勤務中にミスをする場面がある。

 また、『秘密の森』シーズン2には、家の保証金2億5000万ウォンを持ち逃げされた女性が、刑事に被害を訴えるシーンが登場した。

ドドソソララソ』や『コンビニのセッピョル』でも、主人公が悪徳仲介業者と不動産契約を交わしたために、保証金を失い、住んでいたマンションも追い出される事態におちいってしまう。

 こうしたトラブルは、日本語字幕では「保証金詐欺」や「不動産詐欺」と訳されているが、韓国語では「チョンセ詐欺」という言葉で登場する。

■韓国ドラマに登場する金銭トラブル「チョンセ詐欺」のチョンセってなに?

 チョンセとは、韓国の賃貸システムのひとつ。賃借人は家主に物件売買価格の60〜70%にあたる高額保証金を預ける代わりに、契約期間中は月々の家賃を支払わずに住めるというもの。家主はその保証金を投資にまわすなど、自由に使用できるが、契約終了時には賃借人に全額返金しなければならない。

 2002年、ソウル西部の人気エリア弘大は、ヴィラ(低層マンション)のチョンセ保証金が7000万ウォンだった。なぜ覚えているかというと、不動産屋さんで家探しをしていた時のこと、「すぐに入居できるチョンセ物件ある?」と、30代くらいの女性がものすごい勢いでかけ込んできたことがあったのだ。

 親と大ゲンカして家を飛び出したので、早急に住む場所が必要なのだと、店内にいた全員に聞こえる声で事情を説明していた。そんな彼女に、担当者が勧めていたのが、保証金7000万ウォンのヴィラだった。このエリアの相場だという。

 日本円に換算すると約700万円。「高っ」。私は自分に勧められたわけでもないのに、思わず声を上げた。家賃がタダになるのは魅力的だけど、チョンセってそんな高額を預けないといけないのかと、驚いた記憶がある。

 あれから23年。不動産の高騰をはじめとするさまざまな要因で、ソウルのチョンセ保証金は跳ねに跳ねた。現在、弘大エリアで、ヴィラをチョンセで借りるには、1億5000~2億5000ウォンもの保証金が必要になる。アパート(高層マンション)のチョンセはさらに高く、弘大の場合は最低でも5億ウォン。位置や築年数、間取り、階数によってその額は前後するが、かつての7000万ウォンの比ではない。

■ドラマだけじゃない!チョンセ詐欺は現実社会でも多発中

 チョンセは、家賃がタダになる利点はあるが、高額な資金が行き交うため、詐欺に遭う危険性も。国土交通部によると、チョンセ詐欺被害の届出件数は、今年の1〜3月だけでも5157件。ひと月に約1700件もの被害が発生している計算になる。

 つい先日も、保証金をだまし取った不動産仲介業者が捕まったというニュースが流れた。月々の家賃払いが必要な物件をチョンセ物件と偽ったという。『賢い医師生活』のト・ジェハクが被害に遭った手口だ。「チョンセ転換詐欺」と呼ぶらしい。

 これ以外にも「二重契約詐欺」、「信託不動産詐欺」、「三行詩通帳詐欺」、「仮登記詐欺」など、チョンセ詐欺にはさまざまな手法があり、新手が登場するたびに、その巧妙な手口がニュースで解説される。