■それで人生が終わるわけではない

 目の前のオリンピックが1年も延期されることになった。失望、不安、いろいろあるだろう。しかしそれで人生が終わるわけではない。それよりも、オリンピックを目指して競技に取り組むなかで助けてくれた人びとに、まず感謝を思うべきだと、私は思う。

 さらにいえば、オリンピックは来年も開催できない恐れが十分ある。ヨーロッパと北アメリカで猛威を振るっているウイルスは、2週間前にはまだ「対岸の火事」だった南米やアフリカで、いまや爆発的な拡大に移ろうとしている。予防ワクチンの開発には1年以上の時間が必要と言われ、有効な治療薬さえ確立されていない現在、その勢いを止めることはできない。アジア、ヨーロッパ、北米で現在の「流行の波」を止められたとしても、南米やアフリカから「第2波」、「第3波」が襲ってくる可能性も否定できない。

 Jリーグは中断期間を2回延長し、現在は5月9日の再開を目指している。欧州のサッカーも、5月に再開させて、無観客試合でもともかく今季を終わらせる道を模索している。しかし再開の希望は日に日に遠くなっている。今季のJリーグが完全に中止になり、欧州も2019/20シーズンを完了できないとなる状況も、私は覚悟している。

 私たち人類は、いま、史上かつてない危機に立たされている。被害を受けているのは、スポーツだけでも、サッカーだけでも、もちろんオリンピックだけでもない。人類社会のあらゆる側面が、根本から脅かされている。そしてそのあおりを最も痛切に受けるのは、一般の生活者にほかならない。

 バルセロナの選手たちが自発的に給料カットを申し出たのか、クラブとの話し合いのなかでそう決めたのかは知らない。しかし彼らが「クラブスタッフ」という生活者に思いをはせ、一般の人びとからは遠くかけ離れた収入の多くを返上することを決めたのは重要な示唆と言えるだろう。

 プロスポーツ選手やオリンピック・アスリートたちは、これまで享受してきた高給年俸や競技環境を当たり前と思ったり、それを失うことに泣き言を言うべきではない。

 あなたたちは、誰にもまねのできない素晴らしいパフォーマンスで世界の人びとに勇気・感動・喜びなど大きなものを与えてきた。しかしそのパフォーマンスの源が、ファン・サポーターからの声援や拍手とともに、無数の人びとの支えであったことこそ、いま思い、自らの言動に転換しなければならない。

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