■ただ一度だけの「オヤジ」マスコット

 一転、1980年代は「植物マスコット」の時代にはいる。1982年スペイン大会は「ナランヒート(オレンジ坊や)」。枝に付いた1枚の葉を頭に乗せた「超頭でっかち」、「1.1頭身」のその姿は最初珍妙だったが、意外や意外、人気を集めた。1986年、開催を予定されていたコロンビアの財政破綻によりわずか16年で2回目の大会開催が回ってきたメキシコは、大急ぎで「ピケ」という名の青トウガラシのマスコットをつくった。もちろんソンブレロをかぶっているが、笑顔ながらまるで盗賊のような顔には真っ黒なヒゲ。植物とはいえ、「オヤジ」がマスコットになったのは、史上ただ1回である。

1982年スペイン大会は、人気者だったオレンジ坊や
1982年スペイン大会は、人気者だったオレンジ坊や
1986年メキシコ大会は、青とうがらしのおやじキャラ
1986年メキシコ大会は、青とうがらしのおやじキャラ

 

 1990年イタリア大会。史上最も奇抜なマスコットが登場する。「チャオ」である。イタリア国旗の赤白緑に塗り分けられた積み木のような手足と胴体の上に白黒のサッカーボールが「頭部」として乗っている。動物でも植物でも少年でもない、イタリア人の独創的で芸術的なセンスに全世界が度肝を抜かれ、記念グッズも飛ぶように売れた。

1990年イタリア大会。顔がボールでしゃべれないチャオくん
1990年イタリア大会。顔がボールでしゃべれないチャオくん

 しかし世界の誰もがイタリア人のような芸術家ではない。1990年代の残りの2大会は再び動物に戻り、1994年アメリカ大会はなんの変哲もない犬の「ストライカー」(名前にも「生みの苦しみ」は感じられない)、1998年フランス大会はニワトリの「フーティックス」。冒険はない代わりに親しみがあったのか、ともに大会中の露出は多かった。

1994年アメリカ大会。犬のストライカーくんは意外にも人気者に
1994年アメリカ大会。犬のストライカーくんは意外にも人気者に
1998年は、ニワトリのフーティックスくん
1998年は、ニワトリのフーティックスくん

 

夢のフランス98。折りたたまれたフーティックスくん
夢のフランス98。折りたたまれたフーティックスくん
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