何の目印もない円形の場に

 今回は、何もない場所、たとえば円形の広場に、どうしたらこの美しいサッカーグラウンドを描き出せるかという話である。もちろん、1対のゴールはある。そしてラインを引く石灰と「ラインカー」も用意されている。しかしメジャーなどはない。

これも立派なライン。どんな道具も、デコボコのグラウンドにはかなわない。

 普段私たちが使う公共のサッカーグラウンドには、当然のように「マーカー」と呼ばれる目印がエリアの角ごとに埋め込まれている。それを探し出してラインを引けばいい。しかしあるとき私のチームが合宿地として選んだ施設は、「多目的広場」と呼ばれるさしわたし120メートルほどの円形のグラウンドがあるだけだった。合宿初日の練習を始める前に、ここにラインを引き、サッカーグラウンドをつくり出さなければならない。

普通、こんなマーカーを地中に打ち込み、しっぽの部分だけをグラウンド上に出してライ ンを引く目印にする。
普通、こんなマーカーを地中に打ち込み、しっぽの部分だけをグラウンド上に出してライ ンを引く目印にする。

 私は考えた。ペナルティーエリアやゴールエリア、センターサークルの大きさなどは熟知している。しかしそうしたラインを引く前に重大なことがある。何もないところにサッカーのラインを引くとき、最も難しく、また最も基本になること、それはゆがみのない長方形をつくることだ。2つの長辺は「タッチライン」となり、2つの短辺は「ゴールライン」となる。

「ゆがみのない長方形」と言っても、A4の紙の上ならともかく、身長160センチの人間が地面に100メートル級の長方形を描くことの難しさは、ナスカの大地に巨大な動物の絵を描くのに似ているかもしれない。

 私はダイソーに走り(当時はそんな便利なものはなかったので。実際にはコンビニに行った)、ポリプロピレン製の「荷造りひも(250メートル)」なるものを2個買ってくる。経費は200円。当時はもちろん消費税などない。

 まず手元にあるモノサシを使って、1メートルの長さのひもをつくる。そしてこんどはそれをモノサシ代わりにして、5.5メートル、16.5メートル、9.15メートル、さらに11メートルのひもを2本ずつつくる。

 読者の皆さんは、ボーッとサッカーを観ているような人びとではなく、ルールにも精通しているに違いない。これらのひもが何を意味しているのかすぐに察知できるだろう。それぞれゴールエリア、ペナルティーエリア、センターサークル、ペナルティースポットを決めるのに使うものである。

 そして何より大事なのが、3メートルと4メートルのところに結び目をつけ、さらに5メートルのところを最初の3メートルの頭に結んだ大きな輪の形をしたひもを1つくることである。そう、この3つの結び目を引っぱると、「直角三角形」ができるのだ。これは中学の数学で習うことかと思って調べてみたら、小学生でも知っていることらしい。

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