■30代のラブロマンス

 また、そんな舞台で繰り広げられるのが、登場人物たちの日常です。九龍城砦の不動産店「旺来地產公司」に勤める鯨井令子32歳。令子は、同僚の工藤発(30)と会えば口喧嘩をしてしまいますが、こっそり秘める想いが。ガサツに見える工藤の優しさや、不意のひと言に令子の胸は高鳴ります。

「クーロンは懐かしい場所であるべき。この懐かしいって感情は恋と同じと思っている」という工藤も、もしかしたら令子のことが気になってるのかな、なんて描写も……。

 閉鎖的な空間で生まれる、大きな事件も起きない日常的な、同僚同士の恋……。もどかしくも二人を見守りたい、そんな気持ちになった1巻のラスト……。読者は、もう一度最初から読み直さなければいけなくなるのです……。

『九龍ジェネリックロマンス』というタイトルを何度も繰り返すことになるのです。非日常と、日常と、そして非日常。1巻のラストがすべての始まり、となりそうです。

 そして、これ以上は言えない中でも素晴らしいのが、小道具の使い方です。ノスタルジーあふれる九龍の街並みと、私たちが目にしたことがないような未来のもの。過去と現在と未来。そして人々の記憶を結ぶものたちが、このマンガでは小道具として登場しています。スイカ、メガネ、金魚……ぜひ注目して読んでみてくださいませ。

 また、こちらのマンガは現在、「次にくるマンガ大賞2020」にノミネートされています。「次にくるマンガ大賞2020」とは2014年にniconicoとダ・ヴィンチの共催企画として、すでに売れているマンガではなく「次に流行るであろうマンガ」の発掘・紹介を目的に創設された大賞。

 第1回で1位に選ばれた『僕のヒーローアカデミア』や、第3回で1位となった『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦』など、上位に入ると高い確率でアニメなどの映像化にもつながるという「次にくる」こと必至の大賞。すでに投票は締め切られており、8月19日にニコニコ生放送にて結果発表されます! 楽しみですね!

 多くの方に刺さる漫画となっております。ぜひ“心臓の運動”お試しください!

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