そして、中村の凄みはこうしたプレーだけではない。自身のゴールの直前、FW宮代大聖に動き方をレクチャーしていた。手を使って、恐らくは“縦の走り方”について宮代に繰り返し説明していた。復帰戦のピッチで、後輩の動きを修正できるのだ。成長を促せるのだ。小林悠も試合中に旗手へ激しく指示を飛ばしていたが、川崎のチーム力の高さはそこにある。中村、小林、後輩のためを思う先輩がいる。しかも、復帰戦で後輩の成長を考えてやれるのだ。

 中村の得点後、川崎はさらに1点を奪って試合は終了。5−0という結果以上の圧勝だった。

 パス、ゴール、仲間とのコミュニケーション。負傷前と何も変わらない中村の姿がそこにはあった。ケガの影響を感じさせないプレーがあった。等々力に中村憲剛がいる光景が、また帰ってきた。

 試合終了後、中村は左足をポンポンと叩いてねぎらった。サッカーの楽しさをまた感じさせてくれたお礼だったろうか。丸まって表情は見えなかった。この日、すべてがオープンだった中村にとって、唯一、中村本人しか知らない時間だった。

 復帰戦後、ブログにこう記している。

「サッカーの神様が本当にいるのなら、去年同じ場所で負ったあのケガは今日のこの素晴らしい時間を味わうための、プレーする幸せを、楽しさをもう一度この年齢で噛み締めるためのものだったのですか?と聞きたくなる」

 川崎の14番の全身から放たれるサッカーの楽しさ。中村憲剛の姿をピッチ上で見る喜びが、蘇った。

 

 

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