「コンタクトプレーのジレンマ」(2)ホールディングがもたらした難題の画像
ボールを奪い合う于漢超(上海申花)と中村帆高(FC東京) 写真:新華社/アフロ

※第1回はこちらから

ACLを戦うFC東京が、再開初戦を受け入れがたい判定によるPKで敗れた。DFが相手FWに手をかけて、PKを取られた。川崎フロンターレが、勝てば優勝という大一番で大分トリニータに敗れた試合でもあったケースだ。

■2014年ワールドカップ西村雄一主審の笛

 2014年ワールドカップで、日本の西村雄一主審が相樂亨副審、名木利幸副審とともにブラジル対クロアチアの開幕戦を担当した。こうした大会の開幕戦審判は、その大会の「スタンダード」をつくり、示すという面で大きな重責を担っている。「チーム西村」の実力がそれだけ高く評価されていたことの証明だった。もちろん、日本の「サッカー審判史」においては、2006年大会で3位決定戦を担当した上川徹主審、廣嶋偵数副審を超える栄誉だった。

 しかし1-1で迎えた後半のなかばに西村主審がブラジルに与えたPKが世界中から大きな批判にさらされる。ペナルティーエリアの右から入れられたボールを、ブラジルのFWフレジがゴールを背にして止めると、後ろからクロアチアDFロブレンが厳しく寄せる。その瞬間、フレジは両手を上げ、背中から倒れ込んだ。ロブレンの左手がフレジの左腕を、そして右手が右腕をかかえこむようにした直後だった。

 西村主審の最大の長所は、走力とプレーの予測を兼ね備えることによるポジションどりの良さにあり、このときも10メートルの距離からしっかりと視野を確保してこのプレーを見ており、即座に、そして確信をもってPKの判定を下した。

 フレジが大げさに倒れたのは間違いなかったし、ロブレンがフレジの両腕を強く引っぱったわけではなかった。しかしルールによれば、「ホールディング」は、チャージやタックルと違ってボールにプレーしようとした結果ではなく、意識的にか無意識にかは関係なく、「プレー」とは呼べないことをしてしまう反則である。西村主審にはロブレンがフレジをつかむのがはっきり見えた。そしてフレジは倒れた。ファウルは明白だった。FIFAも西村主審の判定を支持した。しかしあまりに反響が大きかったためか、「チーム西村」がこの大会で再びピッチに立つことはなかった。

  1. 1
  2. 2
  3. 3