■40歳の誕生日は等々力で

 昨年11月、39歳を迎えた2日後に、憲剛は左膝にひどいけがを負った。前十字靱帯と半月板の損傷。全治は7カ月と診断された。大小のけがと戦いながらのサッカー人生だったが、これほどの大けがは初めてだった。当然、「引退」が取り沙汰された。しかし憲剛はこのまま引退など絶対にしないと考えていた。

 順調に進んでいたリハビリに突然ブレーキがかかったのはことし3月。新型コロナウイルスで何もかもがストップしてしまったのだ。しかしここでまた憲剛は頭を切り替える。家族とのんびり過ごせたことが、体から力を抜かせ、自然に回復を早めた。

 そして8月29日、憲剛はついに復帰を果たす。清水エスパルスを等々力競技場に迎えた川崎。鬼木監督はこの日からベンチにはいった憲剛を後半32分にピッチに送り出す。盛大な拍手が送られるなか、憲剛は果敢に相手ゴールに攻め込み、9分後には、相手パスミスをかっさらって左足のワンタッチでGKの頭上越しに送り込み、追加点を決めた。

 さらに2カ月後の10月31日、憲剛がちょうど40歳の誕生日を迎えた日に、川崎は「多摩川クラシコ」のライバル、FC東京戦を迎える。首位川崎対2位FC東京。川崎が勝てば今季の優勝に大きく前進する試合だ。試合は川崎が前半だけでシュートを14本も放つ猛攻をかけ、試合を完全に支配した。2試合連続の先発となった憲剛は飛ばしに飛ばし、そのうち4本をひとりで打った。うち1本は、正面25メートルからバーを直撃する強烈な右足シュートだった。しかし前半に川崎が得た1点のリードを後半12分にディエゴオリベイラに取り返され、試合は振り出しに戻る。

「神」が舞い降りたのは、後半29分のことだった。左から川崎の新しい切り札である三笘薫が魔法のようにボールを扱いながらゴールラインまで持ち込み、ニアポスト前、ゴールエリアのラインまではいりこんできた憲剛の足元に倒れながら鋭いパスを送る。至近距離からの強いパス。普通の選手なら止めるのが精いっぱいだっただろう。しかし憲剛はそこにそうしたボールがくることを予知していたかのように、スムーズにプレーした。素早い動作で左足を後ろに引き上げ、ムチのようにしなやかに、しかも鋭く振り抜き、きれいに三笘からのパスにインステップでミートしてFC東京のゴールに叩き込んだのだ。

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