昨今の韓国ドラマは、実に奇想天外だ。どこぞの世界にタイプスリップしたり、異次元のキャラクターと恋に落ちたり、はたまたゾンビと戦ったり。設定だけ聞くと、そのストーリー、成立するのか?と不安を抱かざるを得ないのだが、蓋を開けてみれば共感しきり。あげく号泣ということも多々ある。突拍子もない事件に巻き込まれたとしても、それに向き合い、乗り越えていく主人公たちの生き方が感動的なのだ。
『社長をスマホから救い出せ!~恋の力でロック解除~』も、その類の1本だ。
タイトルからして、なんじゃそれ?だろう。が、乱暴な言い方をしてしまえば、本作、設定など気にしなくていい。見どころはまったく違うところにある。ひとつは、「みにくいアヒルは白鳥だった!」。もうひとつは、「社長×秘書の主従ロマンス」だ。
■ピュアな凡人ヒーローが窮地を救う!? 落ちこぼれ就活生が若手社長に!
主人公は、とあるスマホを拾ったことをきっかけに、大手IT企業の新たな社長に指名されてしまった落ちこぼれ就活生、パク・インソン。スマホの持ち主である本物の社長キム・ソンジュが、大事な取り引きを前になぜかスマホの中に閉じ込められてしまい、インソンを身代わりに仕立てるのだ。
何度も言うが、このあたりの設定は深く考えなくてもいい。スマホを通じて、キム社長の指示に従い、社長業をこなしていくインソンだが、根が純朴で真っ直ぐなものだから、腹の探り合いだらけのビジネス社会では風変わりな天才扱いに。そんなこんなで思いがけず社長としての才を発揮していく、凡人ヒーロー、インソンは、果たして会社の窮地を救えるのか。そして、キム社長をスマホの中から救い出せるのか?という内容だ。
最初にも書いたが、惹き込まれるポイントは、2つある。
ひとつは、凡人ヒーロー、インソンの魅力だ。生まれつきの御曹司(しかもクール&有能)という韓ドラ定番の主人公とは真逆で、いわば、“みにくいアヒルの子”。白鳥の子ではないため、序盤は、決してキラキラしていない。が、そんな彼が、徐々に誰よりも社長らしく輝き、周囲を魅了していく過程が、実にいいのだ。
たとえば、ITの知識などまるで知らないインソンが、社長として自社コンテンツの展望を語る羽目になる場面だ。実は俳優志望で、演技の才はあるのに正義感の強さゆえに、業界から追放された過去を持つインソンは、台本のセリフがごとく難しいIT用語を脳内に入れ、「自分は社長だ」と自身に言い聞かせる。社長スイッチが入った彼は、流れるように見解を述べ、皆を説得してしまうのだ。
自らを奮起し、堂々と社長らしくなっていく様は、みにくいアヒルの子が実は白鳥だったか!な展開で、愉快かつ痛快だ。と同時に、社長としても俳優としても自信を取り戻していく姿に、思いがけず共感してしまったほど。これは、稀代の詐欺師に仕立てられ、真のヒーローとなっていく『ビッグマウス』(イ・ジョンソク主演)にも重なる部分がある。
また、虐げられている弱者や困っている人を見逃せない性格により、誰も見ていないところで周囲の人を助けていたインソンが、人々を感化し、最終的に多くの人の支持を集めていく展開も、実に清々しい。ピュアで熱い性格が武器になっていくという意味で、高校生ながらエリートの兄に代わって大企業の本部長になってしまう主人公の活躍を描く『ナイショの恋していいですか!?』(ソ・イングク主演)などにも通じるかもしれない。