「白昼堂々、衆人環視のなか遊説中の元首相が暗殺される!」
日本のみならず世界を震撼させた衝撃的なニュース。米国のドナルド・トランプ大統領や台湾の蔡英文首相、さらにはロシアのウラジミール・プーチン大統領など、命を落とした安倍晋三元首相(67歳)と親しかった各国要人は元より、世界中から悲痛な声が届いた。
事件発生当初から、安倍元首相が銃撃された際の生々しい映像がSNSやメディアで無数に報じられている。そして、その映像から見る現場の状況や事件そのものについても、数々の疑問がSNSを中心に投げ掛けられているのだ。そこで今回は緊急に識者に事件の分析をお願いした。
解説をお願いしたのは、元警視庁刑事で公安警察や要人警護の経験も豊富な北芝健氏。現在もツイッターでたびたび炎上する某IT長者からウクライナ同様ロシアに狙われているモルドバ共和国の駐日大使まで、数々の要人警護を務めている、まさに危機管理や警備のエキスパートだ。
■元首相の命を奪った「わずか1分の死角」はなぜ生まれた?
まず北芝氏に尋ねたのはSNSでもメディアでも声の多い「警備に問題があったのでは?」という疑問。演説開始の11時29分から犯行が起きた11時30分頃まで、わずか1分ほど。報道によれば3メートルという至近距離まで凶行を犯した山上徹也容疑者を近づけてしまったことになる。警察庁警備局は当初「通常の要人警護の体制」だったとしていたが……。
北芝「現場の映像を見る限り警備にあたる警察官の人数は決して少なくはない。警備体制そのものがどうかと問われれば70点ですね。ただ、3メートルまで暗殺者を近づけてしまったのは明らかな大失態ですし、元首相付きのSPが1人というのは腑に落ちませんね」
そもそも、首相経験者や元閣僚などに対する警備の手薄さについては、警察OBから再三不備が指摘されてきたのだという。
北芝「これは以前からの傾向で、私が1986年の東京サミットでサッチャー首相ら要人の警護に当たった時も官邸や永田町と警備の現場とは危機意識にかなり温度差がありました。ただ、SPを出している警視庁警備局も結局、官邸の指示には逆らえず、『そこまでの警護は必要ない』と言われればそれまでなんです」
いわば「日本で元首相を白昼暗殺するなんてありえない」という官邸サイドの危機意識の薄さが、今回の悲惨な事件を招いたともいえるとの指摘だ。さらに、細かいポイントでも「備え」があれば助かったかもしれないと北芝氏は語る。
■ゼレンスキー大統領やオバマ元大統領に学ぶ「備え」とは?
北芝「本来なら安倍元首相も防弾ベストなどを着ているべきでした。よくTシャツ1枚で登場するゼレンスキー大統領(ウクライナ)も外部に出る時は基本アーマー着用ですし、防弾ベストを着ずに遊説することで知られていたオバマ大統領も、実はスーツ自体が特殊な防弾繊維で作られていたそうです」
持病を抱えていた安倍元首相には体調や体力的に防弾ベストは難しくても、現在はオバマ元大統領の防弾スーツと同様の機能を持ったイギリス製の防弾Tシャツもあるので、それを着ていれば最悪の結果は免れたかもしれないという。
さらに、1発目の銃撃から2発目の銃撃の間、約1~2秒の行動で命が助かっていた可能性もある。
北芝「海外で同様の銃撃事件があった場合、爆発音が起きた瞬間に『ゲットダウン!』『ビーフラット!』などと叫びながら要人を引きずり倒し、覆いかぶさるのが基本です。ただ、今回はそれができていなかった。なぜかというと、先に言った危機意識の薄さもありますが、『あの安倍元首相を引きずり倒すなんて恐れ多くて……』という日本人的な逡巡やある種の”忖度”が影響したのではないでしょうか」
防弾着の使用や緊急時のルールの徹底など、何よりもセキュリティ意識のアップデートが喫緊の課題と北芝氏は重ねて警告する。
北芝「今後も模倣犯が出ることは間違いないですし、警察庁警備局を中心にセキュリティの強化が図られるのも間違いないでしょう。それ以上に、3億円事件の時と同様に警備局が所管する公安捜査が今回の事件を機に厳しく行われることになるでしょう」
いわば、日本社会を激変させるきっかけに、安倍元首相暗殺事件は利用される可能性があるという。
事件を利用ということでは、SNSを中心にさっそく「事件の背後には〇〇の存在が」「〇〇の指示で暗殺された」「事件を利用して〇〇が~」などなど、数々の陰謀論が飛び交っているが、記事の後篇では山上容疑者に焦点を当てて、犯行手口や背後関係の謎について迫っていく(明日、7月10日昼公開予定)。