■澄み切った空気の島が喘息患者の罹患率が世界一のワケ

 島ではすべての住人が公務員と兼業で農業や漁業を営み、すべての土地が共同所有されている。また、部外者が土地を購入したり、定住することは禁じられている。主な輸出産業は、ロブスター漁業、郵便切手と硬貨の販売。家畜の数は厳しく管理されており、富裕な家族がさらに富を蓄積することはできない。

 島民みな平等で、ある意味、理想的なコミューンというか浮世離れした別天地のイメージ。だが、そんな島にも悩みの種はある。

 これだけ外界と隔絶した島だけに空気は清浄なはずだが、島民の30~40%は喘息を患っていて、実は人口における喘息患者の割合が世界最多なのだという。

 なぜこんな怪現象が起こっているかというと、人口も外界との人的交流も少ないゆえに近親婚が繰り返されたためだ。専門家の調査によると、島の最初の入植者のうち3人が喘息を患っていて、その因子が代々受け継がれてしまったためだと考えられている。

■まさに絶海の孤島だが島民たちの郷土愛もギネス級!?

 島で使われる言葉も15人のご先祖様の影響が色濃い。イングランド南部の英語と19世紀のイディオム、アフリカーンス語、イタリア語が混じった独自の方言で、言語マニアの人にとってはよだれが出てしまう不思議島といえるだろう。

 また、こんな絶海の孤島で生まれたら外に出たくなると思うが、島の人々の「おらが島」への愛着は並々ならぬものがある。

 1961年10月10日、島で噴火が起こり、当時居住していた島民たちはイギリス本土に避難。翌1962年初頭、イギリス政府が島民を対象に投票を行ったが、ほとんどが島への帰還を希望したのだという。

 そして噴火からわずか2年後の1963年、2回に分けて島民たちはトリスタンダクーニャ島に帰還を果たしたのだ。

■天敵のいない楽園で体長約30センチの化け物ネズミが繁殖!?

 島民たちが愛してやまないトリスタンダクーニャ島は、野生生物にとっても楽園のようだ。島は野鳥の貴重な繁殖地で、トリスタンツグミという固有種が存在。トリスタンダクーニャ島から350km離れた無人島、ゴフ島には固有種のトリスタンアホウドリ、大西洋ミズナギドリ、“飛べない鳥”であるゴフムーアなどが生息。

 しかし、人間によって持ち込まれたイエネズミによって、貴重な海鳥のいくつかが絶滅の危機に瀕している。天敵のいないイエネズミは豊富な餌を食べて大型化。最大の体長は尻尾を除いても27センチもあるという。

 主にイギリスの研究者によって、動植物の調査はされているが、まだまだその全貌は不明。未知なる生き物が今後、発見されるかもしれない。

 発見されたのは1506年だが、人間が住みだして200年しか歴史を持たない、孤立した島。ほぼ外部と接触せず、自給自足で暮らすコミュニティに、現代文明に慣れ親しんだ人間の生活のヒントがあるかもしれない。