■池袋界隈が1年でもっとも賑やかになる日

 毎年10月の18日の夜19時ごろから東京・池袋一帯は異様な雰囲気に包まれます。駅前の大通りは一車線が空けられ、法被(はっぴ)などを着た人々が長い列を作り、その多くが手に“団扇太鼓”(うちわだいこ)と呼ばれる片手で持てる太鼓を持っています。
 長蛇の列を作った人々が同じリズムで太鼓を叩き始めると、人数が人数だけに池袋周辺はまるで太鼓の大音声に包み込まれた状態となります。これが、雑司ヶ谷(ぞうしがや)の鬼子母神堂(きしもじんどう)で毎年行なわれている大規模なお祭り、『御会式大祭』(おえしきたいさい)の始まりです。

池袋の街中を練り歩く万灯(特記のない写真の撮影は塩田)

■200年以上前、江戸時代から行なわれてきた伝統的な祭礼

 新型コロナは人が大勢集まるようなイベントで感染を引き起こす率が高く、日本のみならず世界中の「お祭り」を自粛に追い込みました。御会式もそのひとつで、去年と一昨年は開催されませんでした。
 このお祭りは鎌倉時代の僧侶・日蓮上人(にちれんしょうにん)が亡くなった日(10月13日)の前後に日蓮宗の寺院が行っている追悼行事の一部で、10月16日から18日にわたり雑司ヶ谷の鬼子母神堂へ参拝するために多くの人々や山車などが列を作り練り歩きます(最大の規模となる池袋からの練り歩きは最終日のもので、前日などは文京区の『清土鬼子母神(別称・お穴鬼子母神)』からスタート)。

■万灯の光と太鼓や鐘の音が幻想的な空間を作り出す

 練り歩きの列はいくつものグループ(地域ごとに作られる檀家(だんか)を中心とした集団)で作られますが、グループの中心には高さ3~4メートルにもなる大きな灯篭(とうろう)から白い和紙の花の連なりが何本も枝垂れ桜の枝のように垂れ下がった『万灯』(“まんどう”あるいは“まんとう”)。出初式(でぞめしき)などでよく見る“纏”(まとい)を持った人がグループを先導したり、団扇太鼓や鐘などの鳴り物を持つ人々が続き、灯篭の電源などを積んだ山車のような車両が伴われます。太鼓のリズムなどは、グループごとに特徴があったりするので、違いを見比べてみるのも楽しみのひとつになります。
 大通りの歩道や周囲の建物、歩道橋などにはその行列を見るための見物客が鈴なりとなりますし、お祭りの中心地である鬼子母神堂では、参道や境内、周囲一帯にまで無数の屋台が並びます。近年はあまり見られることのない見世物小屋まで出ることがありますから、都内で行われる祭りとしても随一の規模といえるでしょう。