■「ノルマルム広場強盗事件」の概要

 事件の概要はこうだ。1973年8月23日、刑務所から一時帰宅中だったヤン=エリック・オルソン(Jan-Erik Olsson、1941年生まれ)が、ノルマル広場に面するクレディトバンケン銀行に押し入り、4人の人質を取って立て籠った。

 エリックは金と銃2丁、防弾チョッキ、ヘルメット、逃走用のフォードマスタングを用意することと、友人のクラークを連れてくることを要求。政府は警察の交渉担当者との連絡人として、クラークを連れてくることを許可した。

 この事件はテレビで生放送されたスウェーデン初の事件となり、ことの顛末(てんまつ)をめぐって大きな注目を集めた。

「ノルマルム広場強盗事件」の映像
※YouTubeチャンネル「AP Archive 」より

■不可解な人質の言動を説明するために……

 人質にとられた女性行員のクリスティン・エンマーク(Kristin Enmark)は電話で、「クラークももう1人の男性もちっとも怖くない。怖いのは警察です。(犯人たちを)私は信頼しています。信じないかもしれませんが、ここでは大変うまくやっています」と語った。

クリスティン・エンマーク
※画像は「nyheter24.se」より

 この行動を説明する言葉として犯罪学者、精神科医のニルス・ベジェロ(Nils Johan Artur Bejerot)によって生み出されたのが「ストックホルム症候群」という言葉なのだ。

 主犯はエリックであり、クラークは凶悪な犯罪者ではあるが、この事件に関しては「警察の協力者」という立場。そして稀代のイケメン。「特殊な状況下で人質が犯人に好意を抱いた」という単純な説明とは、少々趣が異なる。警察のカメラにより、金庫室の中でクラークがロバータ・フラックの名曲「やさしく歌って​​」を歌ったことが確認されているが、クラークはのちに「エリックに協力したのではなく、状況を落ち着かせて、人質を救おうとしただけだ」と主張した。

 事件発生から5日後、8月28日に警察は催涙ガスを使用し、エリックとクラークは投降。エリックは10年の懲役を宣告されたが、クラークは最終的に無罪になった。

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