■FBIが「米史上最悪の殺人鬼」と名指しした男

“米国史上最悪の殺人”と言われれば、まず思い浮かぶのは誰だろうか?

映画『IT』の”殺人ピエロ”のモデルとなったジョン・ウェイン・ゲイシー、映画『サイコ』のモデルとなったエド・ゲイン、映画『羊たちの沈黙』のレクター教授のモデル、ヘンリー・リー・ルーカスなど、悪名高い殺人鬼は数多い。

 しかし、現在FBIによって“アメリカ史上最悪の連続殺人犯”と名指しされている、サミュエル・リトルの名前が出てくる人は少ないだろう。

■約25年間で93人の殺害を自白

 1940年6月7日生まれのサミュエル・リトルは、1970年から2005年までの間に、93人の女性を殺害したことを告白した。FBIは、リトルが自白した93件の殺人のうち、現時点では(2021年報道)少なくとも60人の殺害に関与していることが確認されている。

 売春婦と客の間に産まれた子(しかも獄中出産といわれている)であるリトルは、16歳のときに不法侵入で逮捕され、少年院に入った。1961年、21歳の時には家具店に侵入した疑いで逮捕され、1964年に釈放。1975年までに窃盗、膀胱、レイプ未遂、詐欺などの罪で11の州で26回逮捕された。

■80年代に一度逮捕も野に放たれた殺人鬼

 1982年、リトルは逮捕され、行方不明だった22歳の女性を殺害した疑いで起訴された。さらに別の26歳の殺害容疑でも裁判にかけられたが、証人の証言の信憑性が疑われたため、1984年に無罪になった。同年、2人の女性を誘拐した容疑で逮捕され、1987年に釈放された。

 リトルは2012年、ケンタッキー州のホームレス保護施設で薬物関連の罪で逮捕された。DNA鑑定の結果、1987年から1989年にかけてロサンゼルスで発生した3件の殺人事件に関与した疑いが浮上。2014年年、終身刑を宣告された(後に累積で「終身刑3回分」の刑期となったという)。

 その後、リトルは服役先の刑務所で、過去に殺人事件を起こしていたことを告白。93人の殺害を自供し、FBIが"アメリカ史上最悪の連続殺人犯"と発表した。

 この稀代の殺人鬼を取材したアメリカCBSのドキュメンタリー番組『60ミニッツ』で、リトルは

「私のような罪を犯した人間はいない」

「私は世界で唯一無二の存在だ。ただしそれは名誉などではなく呪いだが」

 と答えている。また、犯行を自白したのは自分のような凶行を犯す人間が出ないようにとも語っていたというが、凶悪犯罪への反省や犠牲者への鎮魂がそこにあったのかは不明だ。

■殺人鬼が描いた犠牲者の詳細な似顔絵

 リトルは2020年12月30日、80歳のときに刑務所の中で死亡した。

 最初の殺人から2005年まで、犯行期間はなんと25年間。2018年に、700時間におよぶ尋問を行なったテキサス州のジェームズ・ホランド保安官に対し、

「殺人はまるでドラッグだ。私はそれで味を占めてしまった」

 と告白。さらに、被害女性について詳細な似顔絵を描いた。それらはどれも女性の個性を捉えたもので、ある種の才能を感じさせるが、その一方で、犠牲者の名前などは一切覚えていないという。この辺のアンバランスさも不気味なものを感じさせる(発覚していない犯行を隠すための沈黙かも知れないが……)。

 FBIはまだ確認の取れていない犠牲者の情報を集めるため、この似顔絵を公開。また、サミュエル・リトルに行ったインタビューの動画をYouTubeで公開している。女性たちとの思い出を楽しそうに語るリトルの姿が印象的だが、殺人の動機については一切口を開いていない。