■「生きた化石」オオサンショウウオは奇跡の生物
そんな両生類の中で、世界最大だと言われているのが、日本の固有種オオサンショウウオ。スイスで発見された3000万年前の化石と、今の姿がほとんど変わっていない「生きた化石」だ。1952年には特別天然記念物に指定された。
岐阜県より西の本州、四国、九州の一部で、河川の上中流域に生息し、平均的な全長は55~60cm。湯原オオサンショウウオ保護センター(はんざきセンター)には、1.6mの剥製が展示されている。
オオサンショウウオ科に属するのは、中国のチュウゴクオオサンショウウオ、アメリカのヘルベンダーの3種のみ。かつてはヨーロッパ大陸にも生息していたが、現在は日本、アメリカ、中国のみに生息する奇跡の生き物なのだ。
先述の化石が18世紀に発見された当初はヒトの化石だと考えられていたが、シーボルトが日本から持ち帰ったオオサンショウウオの研究により、巨大な両生類であることが判明した。
■真っ二つになっても生きている!?オオサンショウウオの奇妙な生態
岡山県などでは、「身体を半分に裂いても生きていそうな動物だから」ハンザキ、島根県では「口を開けた時に身体が半分に裂けたように見えるから」ハンザケなどと呼ばれる。
体は暗褐色で,暗色の不規則な模様があり,頭部と背面には多数の突起がある。身体は平部ってく、目は小さい。体の両側にヒダ状の筋がある。前足の指は4本で後ろ足の指は5本で、皮膚を刺激すると粘液を分泌する。夜行性で魚類やカエル、サワガニなどを捕食する。
産卵期は8~9月で、川岸や石の下に“ヌシ”と呼ばれるオスが掘った巣穴に数匹のメスを受け入れて数珠状の卵嚢を産ませ、オスが精子をかけて受精。この時、ドサクサに紛れて他のオスも精子をかけることがある。ヌシのオスは、受精した卵を巣穴の中で守り、孵化した後も半年間、幼生を大事に守る。
■山椒の香りがして美味とグルメ王・魯山人が太鼓判を押すその味
日本においては、かつては食用とされることもあり、北大路魯山人は著書の中で「肉を切ると家中が山椒の芳香で包まれた」「味はすっぽんを品よくしたような味で、非常に美味であった」と書いている。
1952年に特別天然記念物に指定されるまで、戦前などは「オオサンショウウオ料理専門店」を銘打つ割烹なども日本各地にあったことが広告などでうかがえる。いまでは野生のオオサンショウウオを食べたら逮捕確実だが、『美味しんぼ』のモデルの魯山人が進める珍味、一度は食べてみたい気もするところだ。
また、中国では現在でも娃娃魚(ワーワーユー)と呼ばれて養殖され、人工飼育下で繁殖三世代以降の個体が、高級食材として僅かながら流通している。
■寿命はいまもって謎で200歳超えの”神獣”も!
そんなオオサンショウウオだが、その寿命については詳しいことがわかっていない。飼育下では50~70年と言われるが、野生の寿命は不明。生息地域が非常に限られ、野生のオオサンショウウオを調査するのは非常に困難なのだ。中国の湖南省張家界市では、1.8mの個体が飼育されており、その年齢は200年。“神獣”と呼ばれ、地元の人たちに崇められている。
湖南省張家界市のチュウゴクオオサンショウウオ。サイズは1.8mで年齢は200歳!
2022年4月には広島の平和公園近くで保護されるなど、都市部で見つかると大ニュースになるが、近年はかつて食用として持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオとの交雑種が発見され、種の保護の必要が訴えられている。
現代人のホモ・サピエンスがアフリカを出て世界各地へ広がったのは、約10万年前。そのはるか昔、2000万年前から変わらない姿で生き続けている太古の生き物、オオサンショウウオ。その存在は、日本の自然の豊かさの象徴といえるかもしれない。