■SNSを主戦場にフェイクニュースを拡散!
また、五毛党は単にネット上で中国政府に都合の悪い記事を消し、プロパガンダ記事を作成するだけではない。2010年代に入ってからはTwitterやFacebookなどのSNSを主戦場にしているという。
事実、2017年に英・ケンブリッジ大学が刊行する学術誌『American Political Science Review』に掲載された論文によると、中国政府は年間4億4800万件のソーシャルメディア投稿を捏造しているという。しかも、手口も巧妙化し、政府への批判に対して政府を擁護することはせず、議論にも関与しないで話題を変えるという(注3)。
但し、同論文では「1投稿あたり5毛のバイト」という都市伝説については明確に否定している。
■中国アゲ、欧米サゲなプロパガンダを展開する五毛党
では、五毛党が展開する「中国アゲ」なプロパガンダとはどんなものだろうか? 以下に挙げるのは、中国のネットコミュニティ上にリークされた五毛党によるプロパガンダの例だ。
・可能な限りアメリカを非難の対象にする。台湾の存在を軽んじる。
・民主主義に正面から向き合わない。「どのようなシステムが真の民主主義を実現できるか」という観点から議論を組み立てる。
・民主主義が、資本主義に適していないことを証明するために、西側諸国における暴力と不合理な例を可能な限り紹介する。
・アメリカや他国の国際問題への干渉を利用して、西側の民主主義が実際には他国の侵略であり、西側の価値観を強制的に押し付けていることを説明する。
・中国の血と涙の歴史を利用して、共産党への親しみと、愛国心を掻き立てる。
・中国の前向きな発展に関する露出を増やし社会的な安定を維持することに尽力する。
もう、いっそ清々しいぐらい「中国アゲ/欧米(&台湾、日本)サゲ」な論調で、こんな露骨なものを鵜吞みにするやつがいるのかと思うが、現在の「ロシアVSウクライナ」の情報戦を見ても、素直にプロパガンダを信じるネット民が多いのは、皆さんも体感されていることだろう。
■進化する五毛党? 単価アップに無償ボランティアまで!?
中国政府による世界規模のネット戦略の尖兵となってきた五毛党については、こんな情報もある。ニューヨーク・タイムズによる2020年の報道(注4)では「思ったより待遇よくなっている」のだという。具体的には、
・400字以上の中国礼賛プロパガンダを投稿→1件で160元(日本円にして3000円強)
・中国批判のコメント摘発→1件で2元5毛(日本円にして50円ほど)
・プロパガンダをリツイート→1件で0.6毛(日本円にして1円ほど)
という「お品書き」になっているようだ。どんなに頑張っても1件5毛よりはだいぶ実入りはいい。
さらに、前出のRFAの最新ニュースによれば、五毛党になり替わる存在も登場しているという。記事中では「青年ネットワーク軍」なる2000万人規模の集団が、中国政府の情報操作に協力しているという(注5)。仰々しい名前で中国人民軍直属の軍事組織かと思いそうだが、実はこれ無償のボランティアなのだという。
注5/Radio Free Asia(自由アジア放送)2021年4月14日記事
すでに中国のネットスラングでも「自千五」の名で知られるこの集団。意訳すると「手弁当で参加する五毛党」で、誰に頼まれたでも指令されたでもなく、中国の仮想敵をネットリンチし、中国政府や”偉大なる国家主席・習近平”礼賛のプロパガンダ拡散にいそしむネット民のこと。いわば中国版のネトウヨだ。
■AIもフル活用しネットで監視&情報操作!
ここまではある意味中国伝統の人海戦術だが、現在では人工知能や機械学習を利用した自動検閲が行なわれている。システムは数百台のスーパーコンピューターによって構成され、ポータルサイトに政府に不都合な批判が現れると、通常は数分で削除されてしまう。サイバー警察は24時間体制でネットを監視し、投獄されているジャーナリストと反体制派の人数は世界最大、とも指摘されているのだ。
また、中国による台湾侵攻の噂は常に絶えないが、習近平国家主席、並びに中国政府は世論を誘導して、台湾侵攻を正当化する準備を進めているのかもしれない。事実、日本国内のSNS、特にTwitterにおいては「”中国による台湾侵攻”などアメリカによるでっち上げだ」とか「台湾側に付くと日本が巻き込まれるぞ!」など、どこかの国から揺さぶりをかけているようなツイートも散見する。
回転寿司でアホの子がやらかした動画が大炎上したり、かわいい猫ちゃんの動画が洪水のように流れてきたりと、ある意味、平和な(かつバカ丸出しの)日本のネット社会からすると都市伝説にしか思えないような話。しかし、日々、ぼんやり眺めているスマホの画面に映し出される「ネットで真実」な情報、もしかすると、すでに中国のサイバー戦略に絡めとられているのかも知れない……。