「大きくなれよ〜♪ま・る・だ・い・ハンバーグ」のフレーズは、昭和育ち世代にとって、テレビでよく見たおなじみのCMソングとして、記憶に刻まれているだろう。あの、山小屋より大きな巨人には、実はモデルが存在する。
それがアメリカ合衆国やカナダの民話で伝説の巨人、怪力無双の木こりとして語り継がれる「ポール・バニヤン」(Paul Bunyan)だ。
■ポール・バニヤンの主な特徴と伝説
北米では知らない人はいないほど有名なこの巨人、その設定(?)やエピソードがこれまたとんでもないものばかり。一例を挙げると、
・生まれた時から8メートルの巨体だった
・木を伐採すると、山が1日で丸裸になる
・ベイブという名の巨大な青い牛を連れている
・数十メートルもある大きな斧を振り回す
また、昔、アメリカは平らで山も谷もなかったが、ポールがアメリカを変えたという「創世神話」のようなエピソードは数知れない。
たとえば、アリゾナからカリフォルニアに移動する最中、岩山の間に足を入れて休んでいた時、ポールが斧で岩山を軽く叩くと、グランドキャニオンができた。ポールとベイブが飲み水を貯めるために、貯水池として五大湖(スペリオル湖、ミシガン湖。ヒューロン湖。エリー湖。オンタリオ湖)を掘った。
それでも水が足りなくなったので、ソリに桶を積んで大西洋から水を運んだが、ひっくり返してしまった。その水が洪水になったので、ポールは水の前に先回りして大きなシャベルで溝を掘ったのが、ミシシッピ川となった……などなど。まるで日本各地で伝説の巨人として語り継がれた「ダイダラボッチ」とそっくりだ。
■木こりや猟師の「ホラ話」から生まれた巨人?
「生まれた時から8メートルあった」っていうなら、じゃあポールを生んだ母ちゃんは何メートルなんだよ?と即ツッコミが入るような伝説だが、そもそもが木こりの飯場(キャンプ)や山で働く木こりや猟師、毛皮商人などが集まる交易所の飲み屋で交わされた「ホラ話(トール・テール)」がポール・バニヤン伝説の発祥だという。
トール・テール(Tall Tale)、直訳すれば「背の高い話」で、要は「あの熊はこれぐらいデカかった」「いやいやもっとデカくて山を越えてた」などと、話がどんどんデカくなるもの。
日本でいえば「噂に尾ひれがつく」というニュアンスで、いまどきでいえば「きさらぎ駅」や「鮫島事件」のような、次々と新たな語り手が参加して話に膨らんだり、ディティールが加わり「都市伝説」となっていくのと同じ感じだろう。
実際、アメリカやカナダで「現代版ポール・バニヤン伝説」と言われている「チャック・ノリス・ファクト」は、世界的なアクション俳優チャック・ノリスをネタにした「伝説大喜利」のようなもので、ネットを舞台にいまも増殖している。それだけ、罪のないホラ話はいつの時代も、世の東西を問わず人々に愛されるということだろう。
ただ、ポール・バニヤンの巨人伝説については、必ずしも「駄法螺(だぼら)」で済まされない部分もある。というのも、本当に巨人がこの世に存在した可能性があるのだ──。