「大きくなれよ〜♪ま・る・だ・い・ハンバーグ」のフレーズは、昭和育ち世代にとって、テレビでよく見たおなじみのCMソングとして、記憶に刻まれているだろう。あの、山小屋より大きな巨人には、実はモデルが存在する。

 それがアメリカ合衆国やカナダの民話で伝説の巨人、怪力無双の木こりとして語り継がれる「ポール・バニヤン」(Paul Bunyan)だ。

■ポール・バニヤンの主な特徴と伝説

北米ではテーマパークや名前を冠したハイウェイが造られるほど親しまれている巨大な木こり・バニヤン /Gary Hoover, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 北米では知らない人はいないほど有名なこの巨人、その設定(?)やエピソードがこれまたとんでもないものばかり。一例を挙げると、

・生まれた時から8メートルの巨体だった
・木を伐採すると、山が1日で丸裸になる
・ベイブという名の巨大な青い牛を連れている
・数十メートルもある大きな斧を振り回す

 また、昔、アメリカは平らで山も谷もなかったが、ポールがアメリカを変えたという「創世神話」のようなエピソードは数知れない。

 たとえば、アリゾナからカリフォルニアに移動する最中、岩山の間に足を入れて休んでいた時、ポールが斧で岩山を軽く叩くと、グランドキャニオンができた。ポールとベイブが飲み水を貯めるために、貯水池として五大湖(スペリオル湖、ミシガン湖。ヒューロン湖。エリー湖。オンタリオ湖)を掘った。

 それでも水が足りなくなったので、ソリに桶を積んで大西洋から水を運んだが、ひっくり返してしまった。その水が洪水になったので、ポールは水の前に先回りして大きなシャベルで溝を掘ったのが、ミシシッピ川となった……などなど。まるで日本各地で伝説の巨人として語り継がれた「ダイダラボッチ」とそっくりだ。

■木こりや猟師の「ホラ話」から生まれた巨人?

ウィスコンシン州にあるポール・バニヤンの名を冠したドライブイン。

なんだよ「木こり飯(Lumber Jack Meals)」って? 喰いたくなるじゃん!

「生まれた時から8メートルあった」っていうなら、じゃあポールを生んだ母ちゃんは何メートルなんだよ?と即ツッコミが入るような伝説だが、そもそもが木こりの飯場(キャンプ)や山で働く木こりや猟師、毛皮商人などが集まる交易所の飲み屋で交わされた「ホラ話(トール・テール)」がポール・バニヤン伝説の発祥だという。

 トール・テール(Tall Tale)、直訳すれば「背の高い話」で、要は「あの熊はこれぐらいデカかった」「いやいやもっとデカくて山を越えてた」などと、話がどんどんデカくなるもの。

 日本でいえば「噂に尾ひれがつく」というニュアンスで、いまどきでいえば「きさらぎ駅」や「鮫島事件」のような、次々と新たな語り手が参加して話に膨らんだり、ディティールが加わり「都市伝説」となっていくのと同じ感じだろう。

映画『デルタ・フォース』のときのチャック。「チャック・ノリス・ファクト」についてはまたいつか Yoni S.Hamenahem, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 実際、アメリカやカナダで「現代版ポール・バニヤン伝説」と言われている「チャック・ノリス・ファクト」は、世界的なアクション俳優チャック・ノリスをネタにした「伝説大喜利」のようなもので、ネットを舞台にいまも増殖している。それだけ、罪のないホラ話はいつの時代も、世の東西を問わず人々に愛されるということだろう。

 ただ、ポール・バニヤンの巨人伝説については、必ずしも「駄法螺(だぼら)」で済まされない部分もある。というのも、本当に巨人がこの世に存在した可能性があるのだ──。