■最大のパトロンは世界有数の大富豪
そして、謎の武器商人ダグラス・リース卿と並び、後のエプスタインを形作った人物とされるのが、最大のパトロンでもあったレス(レスリー)・ウェクスナーだ。ヴィクトリアズ・シークレットなどで知られる巨大アパレルグループ「バズ・アンド・ボディ・ワークス(旧リミテッド・ブランズ)」の創業者にして名誉会長、総資産66億ドル(約7100億円!)ともいわれる世界有数の大富豪だ。
オハイオ州で洋服店を営むロシア系ユダヤ人の両親のもとに生まれ、一代で巨大アパレル帝国を築いたウェクスナーとエプスタインが出会ったのは、前出のダグラス・リース卿と同じく、エプスタインの人生で最も謎に包まれた80年代なかば頃。『ヴァニティ・フェア』の記事に拠れば、ウェクスナーの親友で、これまた大富豪の‟保険王”ロバート・マイスターによる紹介だったという(注5)。
注5/Vanity Fair2021年7月8日記事「The Mogul and the Monster: Inside Jeffrey Epstein’s Decades-Long Relationship With His Biggest Client」より
エプスタインはウェクスナーをあっという間に誑し込むと、前任の財務マネージャーを事実無根の横領の罪で追放し、ウェクスナー帝国の財務マネージャーの座に就いた。ウェクスナーは個人資産はもちろん彼自身の財団のカネまですべてを託した(一説には小切手帳を自由に使わせたとも)。
また、エプスタインがニューヨークで未成年の少女たちをはじめ多くの女性に性的虐待を行なった邸宅も「ロリータ・エクスプレス」の悪名で知られるプライベート・ジェットも、実は、ウェクスナーから破格の安値で譲られたもの。クライアントと投資アドバイザーという関係を越えた親密さがうかがえるエピソードだ。
■大富豪ウェクスナーのもう一つの顔
そして、ウェクスナーのもう一つの顔が、強烈なイスラエル政府支持者であること。エプスタインと出会った数年後の1991年、ユダヤ系の富豪20人と共に慈善団体「MEGA group(メガ・グループ)」を立ち上げている。共同創設者のエドガー・M・ブロンフマン・ジュニア(酒造メーカーのシーグラム会長/世界ユダヤ人会議前議長)は禁酒法時代に莫大な富を築いた大富豪「ブロンフマン一族」の家長、さらに、世界的映画監督のスティーブン・スピルバーグも名を連ねている。
さらに、メンバーにはユダヤ・中東問題に関する共和党最高顧問とされたマックス・フィッシャーの名前もあるように、単なる慈善団体ではないと指摘されている。イスラエルのシャロン元首相やネタニヤフ首相への資金援助や米議会での強力な「イスラエル・ロビー」として絶大な影響力を持っているという。
実際、創設者の一人であるウェクスナーは、2023年10月には、イスラエルのガザ攻撃を非難する声明をハーバード大の学生が出したことに怒り、長年続いていた彼の財団からの大学への支援を打ち切ったことが報道された(注6)。この行動からも、彼が共同代表を務めるMEGA groupがどんな思想のもと動いているか、そして、どれだけイスラエルと太いパイプがあるかわかるだろう。
注6/CNN2023年10月17日記事「‘Stunned and sickened.’ Wexner Foundation cuts ties with Harvard over ‘tiptoeing’ on Hamas」
そして、「ペドフィリア島」の顧客の一人にイスラエルのバラク元首相の名が挙がり、エプスタイン自身にも「イスラエルのスパイ説」がたびたび囁かれるのも、こうしたウェクスナーを通じたイスラエル人脈との接近が原因と言える。
■さらに「詐欺の師匠」と「最大の黒幕」も
ここまで、金融の世界に入る最初のきっかけを作ったエース・グリーンバーグ、謎の秘密結社やイギリス王室ルートに繋いだダグラス・リース卿、史上空前の性的虐待と人身売買の資金源となったレス・ウェクスナーと、ジェフリー・エプスタインという怪人物を生み出した3人の人物を紹介してきた。
残るもう一人の男は、世界中のセレブを手玉に取った詐欺師の手口をエプスタインに教えた”師匠”にあたる人物。そして、最後の女性は今回公開された裁判資料の中でも、ハッキリと「黒幕」と名指しされている、今回の事件の最重要人物だ。
しかし、残念ながらここまででかなりの紙幅を費やしてしまったので、残る二人と、エプスタインの死の謎、さらに「顧客リスト」にある世界中のセレブの名前などについては、後半の記事でまとめたい。