■米男性の憧れが生んだ?「チャック・ノリス・ファクト」

アメリカを代表するアクションスター、チャック・ノリス。数々の都市伝説が生まれることに……(写真は代表作『デルタ・フォース』より /

Tomer T, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

「典型的なアメリカ人男性」と言われて想像するのは、どんな人物だろうか? 白人で金髪、青い目、鍛え上げたマッチョな肉体……アメリカ人の間でも、そんな典型的なアメリカ人男性の象徴として、ジョークの種になっているのが、俳優のチャック・ノリスだ。そして、このチャック・ノリスに関する一連のジョークは「チャック・ノリス・ファクト」として世界中で愛されている。

 チャック・ノリスは1940年3月10日生まれで現在82歳。アイルランド系アメリカ人の家系で、ネイティブ・アメリカンのチェロキー族の血筋も引いている。18歳でアメリカ空軍に入隊する一方で、空手選手としてアメリカ国内で数多くのトーナメントを制覇し、さらに世界選手権ミドル級チャンピオンのタイトルを6年間保持した格闘家としても筋金入りの男だ。

 全米空手大会で知り合ったブルース・リーからのオファーで、ディーン・マーティン主演の『サイレンサー/破壊部隊』(1969)でアクション俳優としてデビュー。さらに『ドラゴンへの道』(1972)にブルース・リーの敵役として出演し、一躍、有名となった(これで知った方も多いのでは?)。

 また、日本人には馴染みが薄いが、93年から01年までアメリカCBSネットワークで放送されたアクション・ドラマ『炎のテキサス・レンジャー』は彼の代表作。チャック・ノリスは小柄だが腕っぷしは強く、組織や法律の枠を飛び越えて自己流の方法で悪事を働く奴らを叩きのめす現代のヒーローとして人気になった。

 チャック・ノリスは退役軍人の最強格闘家で成功した映画スターであり、スクリーンで見せる屈強で洗練したキャラクターがいつしかタフでマッチョな「正義のヒーロー」の象徴的存在となっつたのだ。

■代表的な「チャック・ノリス・ファクト」とは?

2006年11月、イラクの米海兵隊基地を慰問するチャック・ノリス。良くも悪くもこういうスタンスがネタにされる。もちろん、いい人なんですが。

「チャック・ノリス・ファクト」は2005年頃よりオンラインゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」のチャット上などで流行り始め、幅広い世代の間で大流行。そもそもは「チャック・ノリスならこう言うね」「その時、チャック・ノリスはこう言ったのさ」というジョークのネタとして人気になり、「チャック・ノリス」という言葉は単なる人名ではなく「強さ」「完璧さ」を表す慣用句となり、現代アメリカの大衆文化を代表するカルトヒーローになった。

 以下は代表的な「チャック・ノリス・ファクト」の例だ。

 

・When Chuck Norris does pushups, he doesn’t lift himself up. He pushes the world down.

(チャック・ノリスは腕立て伏せをするとき、自分の身体を押し上げるのではない。世界を押し下げるのだ)

・Chuck Norris doesn’t wear a watch; he decides what time it is.

(チャック・ノリスは時計をしない。彼が今、何時何分かを決めるのだ)

・You win some: you lose some. Chuck Norris wins ALL.

(君は勝つときがあれば、負けるときもある。だがチャック・ノリスには勝利しかない)

・Chuck Norris never retreats; He just attacks in the opposite direction.

(チャック・ノリスは決して退かない。彼はちょうど反対方向に攻撃する)

・Chuck Norris doesn't read books. He stares them down until he gets the information he wants.

(チャック・ノリスは本を読まない。必要な情報が得られるまで、彼はそれらをじっと見つめる)

・Chuck Norris makes onions cry.

(チャック・ノリスはタマネギを泣かせる→泣くのは俺じゃない、お前(タマネギ)だということ?

・Chuck Norris can divide by zero.

(チャック・ノリスはゼロで割ることができる→つまり不可能を可能にするということ。もう神じゃん!

 

■数々の都市伝説を育むネット空間

 まことしやかな噂話が飛び交うインターネット空間は、都市伝説の温床となっている。2001年、米・タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に、田代まさしを1位にすべく日本から大量投票が行われた“田代祭り”のように、「チャック・ノリス・ファクト」は「ネタ」としてネットユーザーに愛され続けている。

 2011年には「チャック・ノリス・ファクト」の“震源地”となったオンラインゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」の全米テレビCMでチャック・ノリス本人が登場し、

「Chuck Norris is a hunter but a Chuck Norris does not hunt. Hunting would imply the possibility of failure. Chuck Norris goes killing.(チャック・ノリスはハンターだ、だがチャック・ノリスはハンティングなどしない。ハンティングには失敗が付き物だからだ。チャック・ノリスは殺しに行く)」

 というナレーションが加えられた。もう本人もノリノリ(悪ノリ?)で都市伝説を拡散しているのだから、手に負えない。

 

World of Warcraft のCM動画

■ひょうたんから駒、都市伝説からビジネス

 また、世界的企業P&Gは、2011年にチャック・ノリスの決め台詞「Chuck Norris Approval.」(チャック・ノリスが承認する)を商品パッケージや、店頭ポップで使用。 

 2012年8月公開の映画『エクスペンダブルズ2』では、シルベスター・スタローンが "I heard another rumor that you were bitten by a King Cobra?(キングコブラに噛まれたと噂で聞いたが?)と尋ね、チャック・ノリスが「yeah I was, but after 5 days of agonizing pain...the cobra died"」(ああ、その通りだ、5日間もがき苦しんだ後に...コブラは死んだ)と返すシーンがある。

 さらに、爆発的な人気を背景に、2009年にはチャック・ノリス本人監修のオフィシャル・ファクトブックが発売された。本人公認の都市伝説って……。

 都市伝説は噂として人々が語りたくなるような話、そして、語られていく中で「人気」になったものが残っていく。それこそが“伝説”なのだ。「和田アキ子伝説」と「チャック・ノリス・ファクト」は現代の都市伝説がどうやって作られてきたのかを知るいい教材だと言えるだろう。