■絵本『はれときどきぶた』の世界が現実に?
岩崎書店から出版されている絵本『はれときどきぶた』(作・矢玉四郎)をごぞんじだろうか? 主人公の少年が未来の日付で日記に書いた荒唐無稽な出来事が現実になってしまう、というストーリーで、1980年に出版され、大ベストセラーになった。少年が、あしたは「はれ、ときどきぶたがふるでしょう」と日記に書いたことで、本当に空からぶたが降ってきてしまうのだ。
この絵本のような話が、現実に起きたことがあるのをご存じだろうか? 2009年6月、日本各地で「オタマジャクシが空から降ってくる」という現象が起こり、騒動になったのだ。
■日本で起きた「オタマジャクシ事件」
最初にこの現象が起こったのは、石川県七尾市中島市民センター駐車場。
2009年6月4日、同センター駐車場で作業中の人が「ボトッ」という音を耳にし、音がしたほうを見ると、オタマジャクシが落ちていた。さらに周囲には100匹以上のオタマジャクシが落ちていた。この出来事が新聞で報道され、日本中で大騒ぎになった。
さらに同様の事例が同年6月の間に石川県白山市徳丸町、石川県七尾市矢田町、広島県三次市、静岡県浜松市中区、埼玉県久喜市、長野県須坂市、宮城県大崎市、長野県須坂市、鹿児島県伊佐市、愛知県知立市、岩手県紫波市、福井県鯖江市、秋田県能代市などでも報告された。
■「ファフロツキーズ」とは
雨、雪、黄砂、隕石などではなく「その場にあるはずのないもの」や魚や蛙など生き物がが空から降ってくる現象は、世界中で報告例があり、オカルト界隈では「falls from the skies」を略して「fafrotskies」(ファフロツキーズ)と呼ばれている。
ヨーロッパでは古いもので16世紀にはファフロツキーズ現象を描いた絵があり、さらに遡れば旧約聖書にもモーゼの祈りに応えて神が「マナ(パンのようなせんべいのような食べ物)」を降らせたなんていう伝説もある。ある意味これが最古のファフロツキーズ現象といえるだろう。
日本でも古来から「天狗礫(てんぐつぶて)」と呼ばれる、空から石(なかには石製の矢じりも!)が降ってくる怪現象が伝えられている。しかも、もっとも有名な事例の2つは、オタマジャクシが降った七尾市や白山市と目と鼻の先の石川県金沢市や小松市なのだ。
■「ファフロツキーズ」の原因の主な仮説
こうして世界各地で報告されるファフロツキーズ現象の原因を解明しようと、これまで数々の仮説が提唱された。以下、その代表的なものを見ていこう。
・ウォータースパウト説
ウォータースパウトとは水面上に発生する円柱上の強い渦のこと。一般的には水面上の大気に発生する竜巻のことだが、スーパーセルを伴わない小さなものを指すことが多い。熱帯、亜熱帯での発生が多く、日本海でも発生する。このウォータースパウトが水面付近の生き物を巻き上げ、空から降らす、という説が有力視されているが、「なぜ1種類の魚やカエルだけが降ってくるのか」といったミステリーを説明しきれず、この仮説は現段階で立証されていない。
・鳥原因説
「ファフロツキーズ」の報告例では、水棲生物の落下例が多いことから、鳥が咥えた獲物を上空で吐き出した、と推測されることが多い。狭い地点に多数落下させるためには、大規模な群れが一斉に吐き出す必要があるため、「ファフロツキーズ」現象が起きた地域では、無数の鳥が上空を飛ぶ姿が目撃されるはずである。
・飛行機原因説
空輸中に貨物室が開き、積荷をばら撒いてしまう可能性は否定できない。ただ、飛行機が空を飛ぶ前、16世紀や17世紀にも多数の目撃証言があり、すべてを説明可能な仮説とはいいがたいところだ。
・いたずら説
何者かが人為的に散布している、という説。目的も不明で、散布の瞬間が目撃された例もなく、世界中でいたずらが行なわれた、という可能性は低い。
■「肉の雨」や大地震との関連も?有名な「ファフロツキーズ」の例
・ケンタッキー肉の雨事件
1876年3月3日の朝、アメリカ合衆国ケンタッキー州バス郡にある非法人地域の91X46メートルほどの場所に、赤身肉の断片が数分にわたって降り注いだ。肉片のほとんどは5x5センチほどのサイズで、10x10センチほどのサイズのものもあった。肉園は牛肉と思われたが、調査によってウマか、ヒトの幼児の肺の組織と断定された。この現象の原因はさまざまな推測を呼んだが、ハゲタカのグループが驚いて飛び立った後、食事を逆流させた、という説が唱えられた。
・シンガポールの魚の雨
1861年4月13日、シンガポールで大雨が降った後、水たまりなどに大量の魚がいて、住民がみな魚を拾っている姿を、たまたま現地に居たフランス人の博物学者フランシス・ド・カステルノーが目撃。この魚は、「歩くナマズ」と呼ばれるシンガポール原産種で、カステルノーが住んでいた家の中庭でも多数発見された。中庭は壁に囲まれており、激流の氾濫によってナマズが運ばれてきた可能性はないという。カステルノーはウォータースパウトが魚を運んだ、と推測した。
しかし、この事件を報じた当時の新聞に気になる文章があった。実はこの「魚の雨」の直前、町の大半が崩れるような地震があったと記されているのだ。
先に挙げた日本のファフロツキーズ現象が頻発した七尾市といえば地震の巣ともいえる能登半島。実際、2007年には大きな被害を出した「能登半島地震」が起きており、事件のあった2009年も能登半島では複数回の地震が確認されている。今後は地震との関係も研究調査の必要があるのかもしれない。
■ホンジュラスには毎年「魚の雨」が降る町がある
一方、中央アメリカにあるホンジュラス共和国には毎年5〜6月にかけて「魚の雨(Lluvia de peces)」が降る、ヨロ(Yoro)という街がある。しかも現地の住民によると、この現象はこの地域で100年以上続いているというのだ。この現象が起こる前には、空が暗くなり、稲妻と雷、強風、大雨が2〜3時間続く。そして、雨が止むと住人たちは何百もの生きた魚が地面に散らばっているのを見つけるのだそうだ。
なお、”降ってきた”魚は小さな淡水魚で、奇妙なことに、近くの地域で見られる種類ではないという。実際、ヨロの街はホンジュラスでも内陸に位置し、海から70キロ以上、大きな湖からでも約50キロは離れている。上に挙げたような仮説では説明しにくい環境なのだ。
■地元住民は神父の祈りが「魚の雨」を降らしたと確信
現地の住民は、この現象の原因として「マヌエル・デ・ヘスス・スビラーナ神父」の伝説を信じている。
スペイン人のスビラーナ神父は1856年から1864年にかけて、ホンジュラスを訪問。多くの飢えた貧しい人々のために3日3晩、神に祈りを捧げたという。そして、この「魚の雨」こそがスラピナ神父の祈りのおかげだと現地の住人は信じている。普段から魚を食べる機会のない住民は、この「魚の雨」が降った時だけ魚を食べることができるという。
「魚の雨」を撮影した映像
なぜ魚が空から降ってくるのか、その理由や原因を解明できた人はまだ存在しない。我々が住んでいる地球は、まだ謎だらけなのだーー。