■ヴェネチア沖の絶対に足を踏み入れてはいけない島

 イタリア北東部にある「水の都」ヴェニス(ヴェネチア本島)の南、ヴェネタ潟内に「世界一幽霊が出る島」と言われる小さな島、ポヴェーリア島(Poveglia)がある。記録上、ローマ帝国が東西に分裂した頃の421年に初めて登場したこの島は、1379年にヴェネチア共和国とジェノヴァ共和国と戦争により住民が強制退去させられ、その後長らく無人島だった。

 住民が島を追い出されたちょうどその頃、ヨーロッパ全域では黒死病(ペスト)が大流行。1300年代から1800年代にかけて、ヨーロッパ全体で人口が3分の2に激減するほどの猛威を振るったのだが、その死病の影響がこの島にも悲劇をもたらしたのだ──。

■生きては帰れない「黒死病」の島

中世当時のペストの惨状を描いた絵画

 1793年当時、ヴェネチア共和国の管轄だったポヴェーリア島は、船でヴェネチアに出入りする貨物や人のチェックポイントだったのだが、2隻の船に数名のペスト患者がいたことが発覚。そのままポヴェーリア島はペスト患者の隔離収容施設として使われるようになった。

 島にはヴェネチアで感染したペスト患者と、死者が運ばれ、集団墓地が作られた。しかも、当時はペストの治療法が確立しておらず、島に運ばれたペスト患者は死ぬまで放置されるだけだった。「一度送られたら、生きては帰れない死の島」と恐れられ、ほぼ東京ディズニーランドと同じ広さのこの島で(注1)、ペストにより16万人以上が死亡したと推定されている。

注1/ポヴェーリア島は水路を挟んだ二つの島で構成され面積は0.07平方キロメートル。TDLは0.05平方キロメートル

■「人体実験で多くの患者が殺された」との噂も……

20世紀初めのポヴェーリア島でのペスト対策の様子と言われる写真

 20世紀には再び検疫所として使用され、1922年に精神病院が開設された。あくまで都市伝説だが、この病院の医師の一人が多くの患者を人体実験や拷問の果てにして殺害した後、鐘楼の近くで自殺しているのが発見されたという。

 こうした噂が真実だったかどうかはわからないが、病院は1968年に閉鎖されてしまった(注2)。そして、廃院後に島の空き地は農地として貸し出されたが、不可解なことに使われたのは一時だけで、その後ずっと放棄された状態だ(注3)

注2/途中で精神病院としては廃院し、老人介護施設が造られたという話もあるが未確認。

注3/イタリア政府が「99年レンタル」の条件で貸し出すも、借り手が見つからないのだとか……。

 島には教会、病院、刑務所などの建物の跡地、12世紀に建てられ灯台として再利用された鐘楼などが残り、草木が生い茂っている。島は廃墟だらけで立ち入り禁止。

■おぞましい歴史が恐怖の都市伝説を生んだ?

写真中央に見える塔の「あるはずのない鐘」が鳴ると付近の漁民は恐れているという Marco Usan, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

 こうした悲惨な歴史もあり、このポヴェーリア島については「ペストに冒された末期患者たちが死ぬまで幽閉され、その亡霊が島をさまよっている」「島の土の50%は死者の灰でできている」「精神病院の医師が患者に対してロボトミー手術などさまざまな人体実験を行なった」「幽霊のために心を病んだ院長が鐘楼から身を投げたから病院が閉鎖された」などの都市伝説が囁かれている。

 また、地元の漁師は「島から悲鳴とうめき声が聞こえる」と主張。「塔の鐘が時々聞こえる」とも言われるが、鐘楼の鐘はすでに取り外されている。ペストで死んだ人の骨が網にかかってしまうため、漁師はこの島に決して近づかないという。

「水の都」ヴェニスを訪れる機会があっても、決してポヴェーリア島上陸を試みないように、ご注意願いたい。