■「トトロの森」のような不思議な場所に導かれ…
その後も自転車を走らせると、何やら不思議な場所を見つけた。木が生い茂っているのだが道があって、中に入れそうな雰囲気だ。興味をそそられた私はその中へと入っていった。そこはクバの木が生い茂る林だった。
しばらく歩くと、鬱蒼とした木々の間にぽっかりと陽が垂らされた場所があった。例えなら「となりのトトロ」でメイが初めてトトロに出会った場所に少し似ている。きれいな場所だな……そう思って、デジカメで写真を撮りまくった。そのときだった、ふと奥の方から音が聞こえてきたのだ。
最初は獣の鳴き声のように思えた、だが、耳をすますと人が低くうめく声のような、何らかの抑揚を利かせた歌声のようにも聞こえる。その瞬間、背筋に寒いものが走った。というのも、森の奥は海に切れ落ちている。誰かがいることは考えにくいのだ。直感的に「これ以上進んではいけない」と察し、来た道を戻ることにした。
■聖地を犯した「底辺キャバ嬢」に訪れた異変!
だが、入ってきた場所から出てきたはずだった私は、自分の目を疑った。そこには「フボー御嶽」と書かれた標識が立っていたのだ。フボー御嶽とは、琉球の七大御嶽の一つといわれており、先祖の魂が宿り島の神女が祭祀の時にのみ入る場所だ。普段は草木一本採る事を許されない聖域である。しかも、標識には「何人たりとも出入りを禁じます」と書かれてある。
だが、地図によると私が来た方向からは先に入口にぶつかるはずだ。こんな目立つ標識を見逃すわけがない。そこで、私は自分が犯したことに気がついた。島のもっとも神聖で立入禁止の場所に立ち入ってしまったのだ。しかも、写真まで撮っている。怖くなった私は標識に書かれているフボー御嶽の管理者に電話をかけて謝罪し、写真を消すことでどうにか許してもらえたのだ。
その後、申し訳なくなった私は翌日に久高島を出て那覇に戻ったのだが、それから数日後、私は原因不明の高熱で寝込むこととなった。そういえば、久高島にはこんな言い伝えがある──久高島には様々な掟があり、万が一、掟を破ると災いが降りかかる──と。高熱にうなされたのは立入禁止の場所に入ってしまった久高島の掟を破った災いだったのだろうか。そして、フボー御嶽の中で聞いた歌のような声は何だったのか……。
■別の島では「御嶽から飛ばされた男」の話を耳に
それから数年後、別の島を訪れたときに似たような話を聞いた。
それは、ある深夜のこと。一人の男性が酒を飲みすぎて、島でもっとも神聖といわれている御嶽に足を踏み入れてしまったというのだ。しかも、男性はそこで立ち小便までして眠ってしまったという。そして翌朝、男性が目を覚ますと島から遠く離れた那覇にいたというのだ。
もちろん、深夜なので船や飛行機で移動したというのもありえない。その男性の話は地元ではすぐに噂になり、「御嶽に入ったから飛ばされたのでは」とささやかれたという。
私がフボー御嶽と気づかずに立ち入ってしまったのは、この男性と同じように飛ばされてしまったのだろうか? これが、霊感のない私が不思議な体験をした久高島での体験である。
■「恐れ」よりも不思議で美しく、優しい島
ただ、最後に誤解のないように伝えたいが、久高島の人々はみんな優しかった。食堂で仲良くなった島の人は、星が綺麗に見えるという島の人しか知らない穴場スポットに連れて行ってくれた。そして皆、島の神様の存在を信じていた。
久高島で調べると「怖い」「オカルト」などの検索ワードが出てくるが、私は怖いという気持ちはなかった。ただ、本当に不思議な島ではあった。ふたたび行けるのであれば、今度こそ禁忌を犯さないよう敬意を払って訪れるつもりだ。