■同じ時期に同じ怪異を体験していた二人?

吉田氏の『新宿怪談』所収の実話怪談「新宿ゾンビ」が今回の対談のきっかけに……

──第1回ではお二人に意外に共通点が多いのがわかりましたが、実は、今回の対談のきっかけの一つも『怪談青柳屋敷』に収録した話と、吉田さんが報告されている“ある怪異”が共通するものなんじゃないか? という青柳さんの質問でして。

 

青柳:そうそう。吉田さんに聞いてほしい話がいっぱいあって。「新宿ゾンビ」(注1)の話を知った時、ちょうど僕も「女とコインパーキング」で書いた体験をしていて。ギクシャクしたゾンビみたいな動きとか、場所も同じ新宿区内でしたし、同じものじゃないかと。

 

吉田:それって場所とか時期とかは?

 

青柳:場所は〇〇です。歌舞伎町や新大久保からもそれほど離れてはいないし……。時期はコロナ禍以降のことだから、たぶん21年の冬頃かな。ただ、一個だけ悔しいのは顔が灰色、モノクロだったかピンとこないんですよ。

 

吉田:あ~、惜しい。新宿ゾンビの肝は「顔がモノクロ」ってとこですからねぇ。

『怪談青柳屋敷』にも収録した新宿にまつわる自身の怪異体験を語る青柳氏。

青柳:目撃したのが真夜中だったし、人通りもなくて、比較対象がなかったんですよね。

 

吉田:確かに○○の夜は色味なさそうですしね(笑)。新宿ゾンビが目撃された歌舞伎町や新大久保は人通りも多いし、明るくカラフルですから、顔だけモノクロっていう不気味さが際立つんですけど。

 

青柳:黄土色の長いコートを着ていたことはハッキリ覚えてるんですが。近い時期に同じような怪異だったなと気になったもので……。

 

吉田:同じコロナ禍という要素はあると思いますね。荒んだような街の空気感とか、周りでマスクしていない人がいるとつい顔に目がいってしまうとか。そういう街の雰囲気から生まれてきた体験談という意味では何か通ずるものがありますね。

 

注1/吉田悠軌著『新宿怪談』(竹書房文庫)所収の連作怪談。歌舞伎町や新大久保で相次いで目撃された不可解な人物とは……。

■怪談取材のコツや失敗談は?

積み重ねた場数に裏打ちされたコツや体験談を飄々と語る吉田氏。

──お二人のお話や書かれたものを伺うと、さまざまな人から怪談や体験談を蒐集されていますけど、聞き出すときのコツってあるんでしょうか?

 

吉田:これは怪談関係の人がみんな言ってるんですけど、まずこちらから怪談を話すことですね。怪異体験って日常的に使う記憶の引き出しにはなくて、奥のほうに閉じこもってる。逆に、何かきっかけがあればズルズルでてくる。だから、こっちが怪談をしていると、「そういえば、ちょっと思い出したんですけど……」と向こうから話し出すんです。それがコツといえるでしょうね。

 

青柳:確かに。コラムでも書きましたけど、怪談とはいえない不思議体験談まで広げれば、「そういう話、ないんですけど……」と言う人もたいてい一つは出てくる。なかには何か一つ喋ると、次々と四つぐらい喋る人もいますよ。収録した「積丹半島」(注2)に出てきたおでん屋の女将さんも「お化けなんて信じない」と言ってた割に実は……。

 

──アタマから否定派かと思いきや、いい怪談お持ちでしたね(笑)。コツとは逆に失敗談のようなものってありますか?

 

吉田:失敗談ともいえないんですが、以前、地方の心霊スポットを取材していた時に近所のおっさんにメチャクチャ怒られましてね。別にその土地の地権者でもないのに、もう、大人になってこんなに怒られることがあるんだってくらい。

 

青柳:それは……災難でしたね(苦笑)

 

吉田:ただ、そのおっさん、それでも話を聞こうとしたら、メチャクチャ怒りながらもやっぱり話すんですよ。怒られながら「いい話持ってるな~」って思いました(笑)。

 

青柳:僕も失敗談というのはコラムで書いたものぐらいですが、さっき話したみたいに塾やNPOで子どもたちと過ごしていたのに、当時、彼らから体験談を聞いてなかったのが、今思い返すともったいないなぁ……と。

 

注2/ふらりと入ったおでん屋の女将が語る、積丹半島のとある民宿での怪異。「幽霊なんて迷信や!」と言っていた女将が顔色を変えて語る体験とは……。