■FBIが「事件の本当の黒幕」と名指しした女

 

「本当の黒幕」と名指しされたギレーヌ・マクスウェル

画像:Ghislaine Maxwell, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 エプスタインが拘置所(※1)の中で不審死を遂げた2019年8月から約1年後、かねてからエプスタインのパートナーとして事件に深く関わっていると噂されていた、一人の女性が逮捕された。未成年の少女に対する性的勧誘や性的虐待、人身売買、偽証罪など6件の罪状で逮捕されたその女の名はギレーヌ・マクスウェル

※1 正確にはニューヨーク・ロウアーマンハッタンにある、米司法省が運営する「メトロポリタン矯正センター」。

 

 エプスタイン島事件の発覚当初から、FBIが捜査資料の中で「本当の黒幕」と名指ししていたギレーヌだが、実は事件発覚の4年前、2015年にはすでに性的サービスの強要や人身売買(斡旋)などで民事訴訟を起こされていた。原告はヴァージニア・ジョフレ。16歳の時にギレーヌからエプスタインに紹介され、性的暴行や“調教”を受けたと訴え、最終的にギレーヌ側が数百万ドルを支払うことで和解した。

 

■変態セレブどもを紹介した「売春斡旋業者」?

ギレーヌ・マクスウェル

エプスタインの不審死後、マクスウェルが隠れ住んだニューハンプシャー州の邸宅。

画像:Shutterstock

 その後も別の女性からエプスタインと連名で告訴されるなど、一連の事件が発覚する以前からエプスタインの「売春斡旋業者」としてギレーヌの名は挙がっていた。つまり、FBIが「本当の黒幕」と名指しするだけの根拠はあったわけだ。

 

 さらにいえば、エプスタイン島やニューヨークの豪邸、ニューメキシコの牧場など繰り広げられた、おぞましいセックス・パーティの「顧客」たちの多くも、実はギレーヌの人脈が関わっているとされる。アンドルー王子やクリントン元大統領などに繋がる人脈を持ったギレーヌには、いったいどんな背景があるのか? まずはここから探っていこう。

 

■アンドルー王子と親密な仲だったギレーヌ

アンドルー王子
現イギリス国王チャールズ3世の弟、ヨーク公アンドルー王子。ただし界隈では「使い勝手のいいバカ(Useful idiot)」と呼ばれていたとか……。 画像:Shutterstock

 ギレーヌ・マクスウェル。1961年12月25日、イギリスのメディア王、ロバート・マクスウェルの末娘としてフランス・パリ近郊で生まれた女性で、一般的には「ソーシャライト(社交界の名士)」として知られている。幼少期から父に聡明さを愛され、イギリス・オックスフォードに移住し英才教育を受ける。

 

 長じてオックスフォード大学(べりオール・カレッジ)に進学(※2)。同時に父によりロンドン社交界にデビューすることになる。1980年代を通じて社交界の華として知られたギレーヌは、大学在学中から、1歳違いの英王室ヨーク公こと、アンドルー王子とかなり親密な仲だったとされる。しかも、事件発覚後も綿密に連絡を取り合い、バッキンガム宮殿で密会していたという報道もある(※3)

※2 1986年、24歳で言語学と現代史の学位を取得というので優秀だったのは確かだろう。
※3 「Prince Andrew and Ghislaine Maxwell are still chums and still talk, reports say」The Mercury News 2019年12月31日記事より。ただし、アンドルー王子は70年代後半からは海軍で軍務に付き、82年にはフォークランド紛争に従軍、86年には幼馴染と結婚しているので実際に恋愛関係にあったか否かは不明。

 

■NY社交界でエプスタインと知り合うことに

 

エプスタインとギレーヌ

蜜月時代のエプスタインとギレーヌ・マクスウェル

画像:FilmDayly記事より

 さらに、父ロバートの秘蔵っ子として、大学在学中から父の事業を手伝い何度となく渡米。80年代末、ロバートは「娘のためにニューヨークに会社を設立した」と語っていたという。さらに、ギレーヌは多忙な父の代理として交渉やレセプションに出席することも少なくなかったという。

 

 また、父の紹介やアンドルー王子の人脈を通じてNYの社交界でもその名を知られることになる。なお、ギレーヌがエプスタインと知り合ったのは、前出のホッフェンバーグの証言に拠れば、80年代後半に父ロバートを通じて紹介されたという。

 

 一方、タイムズ紙の報道では「エプスタインと知り合ったのは90年代初頭」とされている。実はこの時期、ギレーヌは衝撃的な転機を迎え、ニューヨークに拠点を移した頃だ。詳細は後述するが、仮にこの時期にエプスタインと接点をもったとすれば、単なる偶然ではなく、なんらかの意図があった疑いがある。そのカギを握るのは父ロバート・マクスウェルの謎めいた生涯と、不可解な死だ。