■生命の起源は宇宙だった?

 科学の中身が、いつの間にか180度変わって、しれっとしていることはよくある。
 昔は宇宙の大きさは無限大と言われ、30~40年前は150億光年と言われ、今は900億光年であり、最初の人類も昭和の教科書にはピテカントロプス・エレクトスと書かれていたが、現在はサヘラントロプス・チャデンシスだ。
 そして今、「生命の起源」が揺れている。
 これまで理科の教科書には、メタンや水素、アンモニアなどを主成分とする原始地球の大気と落雷が化学反応を起こしてアミノ酸をつくり、それが生命へと進化したと書かれてきた。これを「化学進化説」という。
 一方、地球で生命が生まれるのは無理ではないか、そんなに都合よく化学反応が進むわけがないと考える研究者もいる。

■パンスペルミア──宇宙から「生命の素」が降ってきた?

宇宙空間から「生命の素」が降ってくるという、SF顔負けの壮大な学説「パンスペルミア(宇宙播種)説」(画像はイメージ)
/画像:Pablo Carlos Budassi, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 では地球でなければ、一体どこで生命が生まれたのか? 宇宙である。正確には、宇宙から生命の素が地球に降って来て、それが生物へと進化したという。私たちの故郷は宇宙らしいのだ。
 宇宙で生命が生まれたなんて……私たちを作ったのは宇宙人? 
 ちょっと違う。宇宙から生命がやってきた説のことを「パンスぺルミア=宇宙播種説」という。パンは広くという意味で、スぺルミアはさまざな種だ。
 パンスぺルミア説は、宇宙には生命の材料が大量にあり、それが隕石や彗星、チリなどの形で地球に降って来て生命の素となったというものだ。宇宙人は関係ない(もっとも宇宙人が地球の生命を作ったと主張する科学者もいて、後ほど紹介する)。
 これは大真面目な科学の話である。

■ハレー彗星の謎を探れ

1986年、地球に最接近したハレー彗星。次に出会うのは2062年だ。
/画像:NASA(Public Domain)

 1986年、ハレー彗星が地球に接近した。ハレー彗星は約76年ごとに現れる巨大な彗星だ。地球は1年で太陽を1周するが、ハレー彗星は76年で1周するわけだ。
 この機会を逃すと次は76年後だというので、世界中の天文学者が望遠鏡をハレー彗星に向けた。さらに、ハレー彗星を観察するために探査衛星が5機も打ち上げられた。
 彗星が何者なのか、私たちはよく知らない。白く光っているが、光っているのはどんな物質なのか。彗星の中心で飛んでいるのは岩なのか、氷なのか。中心に固体があるなら、そのサイズはどのくらいなのか。
 ハレー彗星に向けて打ち上げられた欧州の探査衛星ジオットは、近距離で彗星の核、つまり彗星の本体を撮影することに成功した。

■ハレー彗星は「雪玉」ではなく「石ころ」だった

 1986年のハレー彗星観測まで、彗星の核は「汚れた雪玉」と考えられていた。
 巨大な岩の周りを氷(水なのか別の物質の氷かはともかく)が覆い尽くし、長年、宇宙を飛んでいるので、氷の表面は宇宙のゴミで汚れている。だから「汚れた雪玉」だ。
 彗星が汚れた雪玉なら、表面は白っぽいか灰色か、そのあたりの色だろう。しかし探査衛星ジオットが送ってきた写真は違った。写真には真っ黒で不格好な石ころが写っていたのだ。
 ハレー彗星の核は全長16キロメートル、幅は7キロと10キロ。巨大で無骨な岩のような形をしていた。そして表面は真っ黒。真っ黒な岩からガスが噴き出し、周りが白く光っている。
 ハレー彗星の本当の姿は「汚れた雪玉」ではなく「真っ黒の石ころ」だったのだ。