■ハレー彗星の「黒い焦げ」の正体とは?

欧州宇宙機関の打ち上げた探査機ジオット

/画像:Andrzej Mirecki, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 ジオットの映像を解析した担当者は、ハレー彗星の外見を「太陽系の最も暗い天体と同じくらい暗い」と表現した。石炭のように黒いと思えばいい。
 真っ黒ということは、と一部の科学者は考えた。彗星の核は炭、つまり有機物(炭素を含む物質が有機物。生き物の体はほとんどが有機物=タンパク質とその仲間でできている)が真っ黒に焦げているのではないか? 有機物がなぜ彗星の表面に? 彗星に生き物がいたのか?
 超高速で宇宙を飛ぶ、ハレー彗星の黒い焦げの正体をどうやって調べればいいのか?
 それには「スペクトル分析」を使う。

■光の色で何が燃えているか分析した結果……

 彗星はいつも尻尾を伸ばしているわけではなく、太陽に近づくと輝きだし、長い尾を伸ばす。太陽からの電磁波が放射圧という圧力をかけて、彗星の表面のチリやホコリを吹き飛ばし、それが電気を帯びて光るのだ。
 放射圧の力は強く、彗星の表面から深さ約6メートルほどがえぐられるらしい。ハレー彗星の白い輝きは、表面の黒い焦げがはがれて燃える光なのだ。
 物質を燃やしたり、電気を流すと特定の光を出す。
 ネオン管を思い出して欲しい。ネオンが赤かったり青かったりするのは、ガラス管の中に電気を流すと赤や青の色を出すガスが入っているからだ。あの仕組みと同じだ。
 逆に、燃えている物質の光を測定し、どんな色の光(赤外線や紫外線など目に見えない色も含む)なのかを調べれば、物質が何なのかがわかる。これがスペクトル分析だ。
 ハレー彗星の光をスペクトル分析した結果と地球上のどんな物質の光が一致するかで、黒い焦げの正体がわかる。

■ハレー彗星は燃える大腸菌だった!

「一本ク〇」みたいな形に見えるが、電子顕微鏡で撮影された大腸菌
/画像:Rocky Mountain Laboratories, NIAID, NIH( Public domain)

 そして、ハレー彗星のスペクトルをさまざまな物質のスペクトルと比較する中で、合致したのがなんと「大腸菌」だったのだ!
 大腸菌である。あの「トイレしたらばっちいから手を洗いなさい」の大腸菌。ハレー彗星の表面を覆い尽くしている黒焦げの正体は焼けた大腸菌だったのだ。宇宙に大腸菌、しかもハレー彗星にびっちり焦げて貼りついている。
 大腸菌ということは、言い換えれば「ウンコ」? つまり……ハレー彗星は焼きウンコ?
 違う、あまりにもイメージと違う。あれが彗星だよと宇宙にロマンを感じるはずの夜空が、これではまるで下水道のようではないか。
 しかも、パンスぺルミア説によれば、地球上の生き物は、彗星から剥がれ落ちた焦げた破片が地球に落ちて始まったのかもしれないのだ。
 私たちのはじまりは焦げたウンコだったのか。あんまりだ。

(次回「我らが故郷は宇宙」へ続く/7月15日公開)