■自称・霊感のある彼氏「K」という男
少し前の話になるが、キャバクラ時代の後輩だったユキナ(仮名)から「彼氏ができました」という報告を受けた。出会った頃は20代だったユキナだが、もう31歳。そろそろ結婚を視野に入れた交際がしたいという。
最初は久しぶりに彼氏ができたことで浮かれていたユキナ。彼氏の名はKといい、ユキナはそれ以来、Kの話ばかりするようになった。だが、話を聞くうちに私は次第に「その男、大丈夫?」と思うようになっていた。
「K、幽霊が見えるみたいで変なことばかり言うんです……」
それはユキナとKが町中でデートしているときのこと。Kが突然、電信柱を見つめ、「あそこに女の霊がいる……」と、ボソッとつぶやいたのだ。
当然、ユキナには何も見えずKが何を言っているのかまったく分からない。だが、彼の言うことを無視するのも悪いと思ったのでとりあえず「え〜、怖いね〜」と適当に返事したという。
「そしたら彼、『俺はお祓いをするから!』と言い出して急に持っていたバッグの中から塩を取り出して電信柱に向かって撒き出したんです。周囲からは変な目で見られるし、本当に恥ずかしかったです!」
■血走った目で「出てこい!」と叫び出すK
「そのKって奴は霊能師マンガに憧れている中学生か何か?」
と聞くと、なんと三十路過ぎだという。町中で彼氏が突然、そんな言動に出られたらたまったものではない。だが、ユキナの動揺をよそにKの行動はさらにエスカレートしていった。
「ラブホテルに一緒に行ったとき、Kが突然、『この部屋、幽霊がいる』と言い出したんです。そして突然、『こういうところに御札が隠されているはずだ』と呟きながら、壁に飾ってあった絵を外し出したんです。その後も、お風呂場の鏡に向かって『出てこい!』と叫びだしたり……。彼の顔を見ると、目が血走っていました。エッチする気にもなれず、彼の”除霊ごっこ”に付き合わされました……」
Kの奇行ともとれる行動にドン引きしつつも、何だかんだユキナとKの交際はしばらく続いた。私は何度か「そんな変な奴、やめとけば?」と助言したが、ユキナは「Kを逃したらしばらく彼氏なんてできなさそうだし」と頑なに別れなかった。
だが、ついに別れを決意させる決定的な事件が起きてしまう。
■ユキナが語った「自称・霊が視える彼氏」との別れ
それは突然やってきた。「アユミさん、話があるんです……」とユキナからひどく沈んだ口調で電話がかかってきたのだ。
ユキナから呼び出された居酒屋に向かうと、そこには1人でヤケ酒を煽るユキナの姿があった。よほど飲んだのか泥酔しているようだ。
「聞いてくださいよ~……」
ユキナが切り出した話はこうだった。1カ月ほど前に突然、Kに別れを切り出されたという。
「別れの理由を聞いても答えてくれなくて、『しばらく遠くに行くから会えない』とLINEで言われたんです」
だが、別れの予兆はあったのかも……ともユキナは言う。それは別れを切り出されるさらに1カ月ほど前に遡る。Kがとあるバーで一人で飲んでいたときのこと、店にいたある女が話しかけてきたという。
「気が合ったのか一緒に飲むことになったそうなのですが、それ以来、彼の様子がおかしくなった気がするんです。私とのデート中に『……女に呼ばれたから行かないと』と突然、帰りだしたり。たとえ浮気だとしても、私にそんなこと話すのっておかしいじゃないですか」
■Kが出会った女はこの世ならぬものだった!?
また、別の日にはこんなことがあったという。
「私の家で一緒に寝ているとき、Kが突然起きて身支度を始めたんです。時計を見ると深夜3時。電車もない時間なのにどこに行くの? と尋ねると、Kはうつろな目をして『バー……女……』と言いながら家を飛び出してしまったんです」
ただならぬ様子に心配したユキナはすぐに「どうしたの?」「何かあったの?」と、Kにメッセージを送った。しかし返信はなく、それからしばらくKは音信不通だったという。それから1週間後、別れを告げるメッセージだけが届いたという。
話を聞いたとき、Kの言動にどこか聞き覚えがあるなと私は感じた。それは、認知症や心の病を患っている人が突然、行方不明になるときの前兆と似ているのだ。
ただ、Kはホントかウソかは分からないが「霊感の強い男」だった。もし、それが本当なのであれば、Kがバーで出会ったという女はこの世のものではなく、それに引き込まれてしまった……と言われれば辻褄は合う。それとも、何かしらKは元々、精神的な病を抱えていて突如、姿を消してしまったのだろうか?
どちらにせよ、あれから半年経った今でもKは見つかってはいない。