■祇園祭の「厄除け粽」を転売する不届き者が!
4年ぶりに完全復活し、先日無事に終了した京都の祇園祭。開催期間中を通して約100万人が訪れ、京都中心部は賑わいを見せた。しかし、祭りで販売された「厄除け粽(ちまき)」の転売が大問題になっているのをご存じだろうか?
厄除け粽は笹の葉やわらで作られており、毎年祇園祭の期間だけ、各山鉾町の会所で販売されている。会所ごとにご利益が異なり、たとえば長刀鉾の粽は厄除け・疾病除け、菊水鉾なら不老長寿・商売繁盛といった具合だ。
通常1本1000円程度で買えるこの厄除け粽が、フリマアプリなどでなんと倍以上の値段で転売されているのだ。 コンプリートを目指して買いに走る転売ヤーもいれば、たんに限定品だからとよく分からず転売している輩もいる始末。神聖な粽が、まるでレアもののトレーディングカードのように扱われてしまっている。
そんな罰当たりなことをしていると、恐ろしい目に遭ってしまうかもしれないというのに……。
というのも、じつはこの粽、ただの厄除けのお守りではないからだ。祇園祭を主催する八坂神社と関係が深い「牛頭天王」が、身の毛もよだつような大虐殺を行なった際に”恩人の一族”を守るために与えたものが由来とされている。
■ほんとうは怖い牛頭天王を甘く見た男の末路は
牛頭天王とは、八坂神社の祭神であり、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の化身ともいわれている神様だ。起源は諸説あるが、もともとはインドにあった祇園精舎の守護神であり、日本では877~885年頃に祇園社(※八坂神社の旧称)へ勧進されたという。
牛頭天王のエピソードで有名なのは、やはり「蘇民将来(そみんしょうらい)」の話だろう。文献によってエピソードの仔細は違うが、話の筋を簡単にまとめると、次のようになる。
牛の頭に鋭い二本の角をもった牛頭天王は、后(きさき)を探すために旅に出る。その途中、とある村で裕福な 古単将来(注1)に一晩泊めてほしいと頼むが、断られてしまう。その後、同じ村に暮らす貧乏な蘇民将来と出会い、もてなしを受けて蘇民の親切心に感謝した。
長い旅路の果てに龍宮へたどり着いた牛頭天王は、頗梨采女(はりさいじょ・はりさいにょ) を娶った。8人もの子宝に恵まれ、幸せに暮らしてめでたしめでたし……と思いきや、8年後のある日、牛頭天王はいきなり「自分の国に帰る」と言い出した。
さらには、「あいつだけは許さん!」との勢いで、自分を冷遇した古単将来を攻め滅ぼして帰ると宣言する。神様を怒らせると怖いとは言うが、一宿一飯を拒まれて8年も恨んでいたとは、蛇のような執念深さだ。
注1/古代から中世にかけていくつも生まれた牛頭天王神話の中には、古単将来ではなく巨旦大王(こたんしょうらい/こたんだいおう)との記述もある。
■無礼を働いた一族は皆殺し!
牛頭天王が襲ってくると知った古単将来は、1000人の僧を集めて経を唱えさせて守りを固める。しかし、ひとりの僧が居眠りをしてしまい、天王の眷属たちに攻め入られてしまった。
古単の妻は蘇民将来の娘でもあった。牛頭天王の眷属たちによる虐殺が繰り広げられるなか、牛頭天王は娘を見つけて茅の輪を渡し、腰に下げておくよう言いつける。そのおかげで、娘は眷属たちから味方と判断されて命拾いしたという。
蘇民将来の娘を除く古単将来の一族は、きれいさっぱり皆殺しにされてしまう。復讐を遂げた牛頭天王は蘇民将来に対し、「茅の輪を作り腰に下げ『蘇民将来の子孫なり』との護符を付ければ、蘇民の一族は末代までも厄から逃れられる」と教える。
冒頭で紹介した、不届き者が軽い気持ちで転売している祇園祭の「厄除け粽」は、この茅の輪が起源なのだ。 「罰が当たるぞ!」と怒られてもしかたのないところだろう。