■最凶の天然痘ウイルスが流出!死者も出る大惨事に!!
1971年6月、ヴォズロジデニヤ島付近の海で漁民や海軍兵士に奇妙な症状が相次いだ。高熱を発し、なかには全身に広がった発疹から血を吹き出して死ぬ者も出た。原因はすぐに判明。アラルスク7から流出した天然痘ウイルスによるものだった。
しかも、このウイルス、兵器化するために致死性や感染力を高めたもので、実験を管轄していた将軍から当時のKGB長官、ユーリ・アンドロポフ(後のソビエト連邦書記長)に送ったところによれば、
「天然痘ウイルスの(生物兵器化のための)最強のレシピを我々は独占した」
と自負するほどの凶悪なものだった。
この最凶ウイルスのアウトブレイクの結果、少なくとも2000人近くが感染し、10人以上が亡くなったという。さらに、ヴォズロジデニヤ島周辺では1980年代にも、家畜の大量死が相次ぎ、これもなんらかの生物兵器が漏出したことが原因とされている。いかに管理が杜撰だったか、これらの事件が示しているだろう。
しかも、後に「アラル天然痘事件」と呼ばれるこのバイオハザードの実態は、2002年にニューズウィーク誌が報じるまで、徹底して隠蔽されていた。そして、同じ年にもう一つ、この島にまつわる重大な事実が発覚することになる。
■米軍細菌戦部隊も音を上げた惨状
極秘の生物兵器実験場・アラルスク7が放棄されてから10年後の2002年、当時、ヴォズロジデニヤ島を領有していたウズベキスタン政府から、アメリカ政府にSOSが放たれた。
というのも、1992年に生物兵器実験場が放棄された際、炭疽菌やペストなど実験中の菌やウイルスがそのまま地中に埋められ放置されていたのだ。このままではアラル天然痘事件やスヴェロドロフスク炭疽菌事件のようなバイオハザードが起こるかわかったものではない。そこで、ウズベキスタン政府は世界最強の細菌戦部隊に放棄された生物兵器の処理を依頼したのだ。
だが、結果はゲームのようにすっきり「クリア」とはならなかった。炭疽菌の容器が埋められた一部のピット(縦抗)は除染ができたものの、どこにどれだけ死を招くウイルスや菌が埋められているか、すべてを特定することは不可能だったようだ。この惨状について、生物兵器の不拡散問題に詳しいモントレー国際問題研究所の研究者は、この島を「有毒物質の時限爆弾」と呼んでいる。
■島が消失後、ウイルス兵器流出の危険性が激増!
冒頭でヴォズロジデニヤ島は「地図上から消された島」といったが、実は、現実的にも消滅した島となってしまっている。というのも、旧ソ連時代からの度重なる無謀な灌漑や水資源計画により、島のあったアラル海が干上がってしまい(一説には水位が25メートルも下がったという)、ヴォズロジデニヤ島は陸地と繋がり、半島のようになってしまっているのだ。そして、この状況がさらなる危険を招いているという。
地続きとなったことで旧ヴォズロジデニヤ島には、金属などの廃物回収業者が立ち入ることが多く、また、「世界一危険な島」ということでツアーが組まれることもある。こうして、この生物兵器実験場跡に立ち入った者が感染し、新たなバイオハザードを引き起こす恐れがあるのだ。
さらに恐ろしいのは、放棄された生物兵器をテロリストや犯罪集団が掘り起こし、世界に流出することだ。前出のモントレー国際問題研究所、上級研究員だったソーニャ・ベン・グラハム氏は、
「掘り起こしたそれら(炭疽菌や天然痘ウイルス)が実際に兵器化できるかは、専門家や時間、お金が必要なので危険性を誇張する必要はない」
と語っているが、逆に言えば、カネと時間と専門家さえあれば多くの人を殺傷できる危険な兵器が製造可能ということだ。
果たして、このまま「地上から消えた生物兵器の島」は眠りにつくことができるのか、それとも、再び悪夢がこの地で蘇ることになるのか……。
Abandoned Anthrax: Vozrozhdeniye Island/SOMETIMES INTERESTING
Visiting the Now Demolished Secret Soviet Bioweapons Lab of Aralsk 7 on Vozrozhideniya Island/The Adventures of Nicole