■「地球沸騰」時代に迫りくる危険とは?

※NASAが2022年3月に公開した1880年~2021年まで約140年間の気温上昇を視覚化した動画

 2023年の夏は世界中が観測史上最も暑い夏になる可能性があるという。

 EU(欧州連合)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」の発表によれば、今年6月~8月の世界の平均気温は16.77度で、1940年からの観測史上最高を記録したという(注1)。読者の皆さんもヨーロッパやアジアの多くの国々で記録的な暑さが続いているというニュースを見たことだろう。

注1/共同通信9月6日配信のニュースより

 

山火事で焼け野原となったマウイ島・ラハイナの惨状

/画像:State Farm, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

 そして、この高温と乾燥の影響か、ハワイのマウイ島やカナダの山岳地帯では大規模な山火事が発生。マウイ島では100人を超す死者を出し、歴史的な建造物も数多く焼けてしまった。また、南米ペルーの世界遺産・マチュピチュの近くでも山火事が発生し、インカ帝国の遺跡が消滅する危機を迎えている。

 

全世界規模の異常な気温上昇に警告を発したグテレス国連事務総長

 この異常事態を受けて、国連のグテレス事務総長は、

「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」

 と警告するなど、現在、世界中で気温の上昇が問題となっている。そして、この地球沸騰現象により、山火事や熱波以上に恐ろしい事態が引き起こされつつあるという──。

 

■永久凍土が溶け「未知のウイルス」が目を覚ます

全世界的に融解や崩壊が報告される永久凍土。この下から古代から眠り続けた死のウイルスが…… /画像:Wikimedia Commons

 いま、科学者たちが警鐘を鳴らしているのが、「溶けた永久凍土」から復活する「未知のウイルス」の危険性だ。

 

 北半球の大陸の20%は、2年間以上にわたり継続して温度0度以下の地盤、いわゆる「永久凍土」で占められている。その厚さは場所によって数百メートルになることもあり、日本にも富士山山頂付近や、北海道・大雪山山頂上付近、北アルプスの立山連峰などに永久凍土があることが確認されている。

 

 永久凍土からは、マンモスのような絶滅した動物の死骸が良好な状態で発見されることがある。学術的な価値はもちろんだが、シベリアのサハ共和国では永久凍土から溶け出したマンモスの発掘が一大産業となり、その牙は象牙として中国や日本へ高値で輸出されているのだ。

 

 しかし、一方で危険性もある。2016年7月にはシベリア西部で溶けた永久凍土から露出したトナカイの死骸から炭疽菌が流出し、感染した1200頭以上のトナカイが死亡。ヤマロ・ネネツ自治管区の住人13人が感染した。この年、現地ではほとんど北極圏にもかかわらず、最高気温35度と異常な暑さを記録していた(7月の平均気温は4~14度とされる)。

 

 しかも、この時はたまたま、ある程度、研究がされていた炭疽菌だったからよかったようなもの。これが現在のコロナウイルスのように未知のもので、しかも致死性や感染性の高い「死のウイルス」だったら……手をこまねいているうちにわれわれ人類は滅亡することになるだろう。

 

■チベット高原、シベリア、続々と氷河から未知のウイルスが!

中国・チベット地方の氷河からも古代のウイルスが復活

/画像:Hiroki Ogawa, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

 また、2021年7月、チベット高原にある4万8000年以上前の氷河から2015年に採取された33種類のウイルスが科学者の手によって甦った。そのうち28種類はこれまでまったく知られていなかった未知のウイルスだった。

 

 さらに、同じく2021年にはロシアの科学者が2万4000年前のシベリアの氷河の中から発見されたヒルガタワムシ(Bdelloid rotifer)という微生物を蘇らせることに成功。解凍後、この微生物は餌を食べ、繁殖することができたという。

 

 これらの発見は科学の発展という点では、輝かしい実績だが、その反面で現代の人類が「出会うはずがなかった危機」をもたらすことにもなる。実際、これまでにも人間社会の発展のウラで、我々が現代には存在しなかったはずの死のウイルスと接触し、多くの悲惨な死者など甚大な被害を出したことがいくつもあるのだ。

 

■未知の「死のウイルス」との接触が大惨事を

西アフリカでは今も警戒が続くエボラ出血熱 /画像:Wikmedia Commons

 わかりやすい例では、映画『アウトブレイク』(1995年)やその”元ネタ”となったベストセラー・ノンフィクション『ホット・ゾーン』(1994年)で注目された「エボラ出血熱」がある。2014年にも西アフリカで1万人を超す死者を出し、猛威を振るったのをご存知の方もいるだろう。

 

 このエボラウイルス、1970年代に最初の患者が出た時点から「急速な森林伐採で生息域が狭まった原宿主のオオコウモリからゴリラや、さらにゴリラからヒトへと蔓延」と、原生林の開発がトリガーだったことが指摘されている。つまり、無闇な開発さえなければ、致死率50~80%という死のウイルスとわれわれ人類が出会うことはなかったのだ。

二パウイルスなどの宿主とされたオオコウモリ /画像:Wikimedia Commons

 また、やはり致死率40~75%(2018年のインドでは90%超え!)という二パウイルスもマレーシアの森林破壊が原因とされる。さらに、2019年に発生し、世界中を震撼させた新型コロナウイルス(COVID-19)も同じく開発により生息域を追い出されたオオコウモリとの接触が原因とされている。

 

 まさにわれわれ人類は、急速な環境破壊の”ツケ”とも言える、死のウイルスの恐ろしさを嫌というほど痛感させられたわけだ。そして、事態はさらに深刻なことに……人類滅亡のカギを握るウイルスは、森の奥に加え、氷で閉じ込められていたはずの古代の地層からもやってくることになったのだ。

 

 科学者たちはこれまで、永久凍土が溶けると、メタンなどの温室効果ガスが放出され、地球温暖化につながる可能性があると警告してきたが、溶け出したウイルスが新たなパンデミックを引き起こす可能性についてはあまり研究が進んでいないのが現状。

 

 永久凍土から溶け出した「未知の古代ウイルス」が現代の環境に適応して爆発的な進化を遂げ、人類を破滅させるパンデミックを引き起こす──そんな恐るべき未来が訪れるかもしれないのだ。