■ナゲットで全治3週間の大火傷って……

全治3週間の大火傷を負わすナゲットって溶岩並みの超高温だったの?

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 2023年7月19日、アメリカ、フロリダ州でマクドナルドのチキンマックナゲットで大火傷を負った少女の家族が「危険な温度のナゲットを販売した」としてマクドナルドとフランチャイズ店を訴えていた裁判で、南フロリダ州の陪審員らはマクドナルドとフランチャイズ運営会社に対し、80万ドル(約1億1700万円)の損害賠償を命じる判決を下した。

 

 被害を受けた当時4歳の少女は、あっつあつのナゲットを太ももに落とし、火傷を負ってしまった。傷が治るまでに3週間の時間がかかったという。

 

 アメリカは日常的なトラブルを裁判によって解決しようとする「訴訟大国」として有名。「え、火傷で1億円もらえるの?」と、日本人の感覚だと信じがたい「トンデモ裁判」は過去に数多く行われてきた。

 

■有名な「コーヒーこぼして3億円」事件とは?

 1992年2月、ニューメキシコ州アルバカーキのマクドナルドでステラ・リーベックという女性がテイクアウト用の朝食を購入。駐車場で停車しているときにコーヒーを膝の間に挟み、ミルクと砂糖を入れようとして蓋を開けて、コーヒーを全部こぼしてしまった。コーヒーはステラが着ていた服に染み込み、第3度の火傷を負ってしまった。

 

 ステラは皮膚移植手術を含む7日間の入院、2年間の通院が必要となり、治療費は1万1000ドルになってしまった。これに対し、マクドナルド側は800ドルの支払いを申し出たが、ステラはこれを拒否、弁護士を雇ったことで事件は騒動になったのだ。

 

 米国では、被告に罰を与えるために懲罰的損害賠償を命じるケースがある。この裁判も典型的な例で、マクドナルドがコーヒーの温度についてなんら注意をしていなかったこと、同様の事件が年間700件起きていたことなどが陪審員の心象を害し、当時のレートで約3億円の賠償金の支払いが命じられた。

 

 この事件はアメリカのバカバカしい訴訟事件の代表例として有名になり、訴えた女性の名前から「その年で最も馬鹿げた訴訟」に与える「ステラ賞」が設立され、毎年のように「〇〇という裁判がステラ賞を受賞したぞ!」などと、ネットユーザーが祭りにしている──ただし、この「ステラ賞が設立された」ということ自体が都市伝説なんだとか。

 

 実際には、トンデモ裁判がニュースに流れるたび、「これステラ賞候補じゃね?」とネットで盛り上がるネタのようだ。なお、ややこしい話だが、ランディ・カッシンガムというジャーナリストが個人のウェブサイトで「本当のステラ賞」を発表しているのだそうだ。

遠く香港でもネタにされている「猫チン裁判」ですが……

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 ちなみに都市伝説と言えば、「濡れた猫を電子レンジで乾かそうとしたら死んだので家電メーカーを訴えた」という”トンデモ訴訟社会アメリカ”の象徴として、よくネットで話題になるが、実はこれも実際には存在しない都市伝説。ただ、こんな都市伝説が生まれるようなトンデモ裁判が頻発しているのも事実。

 

 そこで、ここからは実際に起きた都市伝説も真っ青なトンデモ判例を紹介していこう。

 

■本当にあった「ウソみたいな裁判

タバコが肺がんを誘発するのは科学的に認められていますが、だからってねぇ……

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・愛煙家が肺がんで死亡してタバコ会社に3兆309億円の賠償命令

 2014年7月、愛煙家で肺がんで死亡した男性の妻が、「夫の死の責任はタバコ会社にある」と訴えていた裁判で、フロリダ州の陪審は賠償金236億ドル(約3兆309億円)の支払いを命じた。男性は13歳でタバコを吸い始め、36歳で肺がんで死亡した。

 

・泥酔して喧嘩で怪我したのは店のせい!8億円の賠償金を獲得

 2021年7月、メキシコ料理店で泥酔し、他の客とケンカになり怪我をした男性が、「俺が怪我をしたのは店の過失だ」と訴えていた裁判で、550万ドル(約8億円)の賠償が命じられた。このメキシコ料理店のオーナーは、訴訟には応じず、裁判にも出世っきしなかった。訴えた男性は「過度の飲酒をさせ、負傷後も救急車を呼ばなかった」として、店の責任を追求していた。

 

・お化け屋敷が怖すぎて裁判、1万5000ドル支払い命令

 1998年、アメリカ、フロリダ州のユニバーサルスタジオで「ハロウィンホラーナイト」というお化け屋敷のアトラクションが開催された。それに参加した女性が、「あまりにも怖かったので精神的苦痛を受けた」としてユニバーサルスタジオを提訴。裁判の結果、1万5千ドル(約220万円)の支払いが命じられた。そんなバカな……といった話かもしれないが、裁判によって結果的にお化け屋敷の怖さは証明されてしまったようだ。

◼️成立しなかったトンデモ裁判

・自分がマイケルジョーダンに似すぎてて迷惑!約1230億円の支払いを要求

似ているからカネよこせって言われてもねぇ…… 画像:Wikimedia Commons

 2006年、オレゴン州に住む男性が、「毎日マイケルジョーダンに間違われて迷惑している」として、マイケルとナイキ社を相手に合計8億3200万ドルの支払いを要求する裁判を起こした。この裁判はニュースになり、有名な事件になったが、男性は理由を明かさず訴訟を取り下げてしまった。

 

・「スタバの氷が多すぎる!」5億円の支払いを要求

2016年5月、アメリカ、シカゴ在住の女性がスターバックスに対し「アイスコーヒーやアイスティーに氷が多すぎる」として500万ドル(約4億9000万円)を要求する裁判を起こし、話題となった。女性は「飲み物の量がメニューの表示よりも少なく、虚偽広告と消費者に対する詐欺だ」と主張した。これに対し、スタバ側は「不満なら作り直します」と回答したという。

 

◼️アメリカでトンデモ裁判が頻発する理由とは?

 日本で弁護士資格を取るのは非常に狭き門であるのは有名。もちろんアメリカにおいても同様で、その難易度を単純に比較することはできないが、弁護士の人数で国民の数を割り算すると日本は弁護士1人あたり3075人、アメリカは260人という計算になる。日本よりも弁護士の数が圧倒的に多いのだ。弁護士は基本的に成功報酬なので、商売敵が多いアメリカの弁護士にとっては多数の裁判が必要になる。

 

 これに加えて、冒頭の「マックのコーヒーが熱すぎて3億円!事件で触れたように、アメリカには「懲罰的損害賠償制度」というものがあり、加害者側が悪質である場合など、実際の損害に加え、裁判所や陪審員の裁量で金銭を加算されることがある。「トンデモ裁判」に見えても、企業対個人の裁判の場合「社会的に意義がある」と判断され、個人が勝利することが多いのだ。

 

 極力トラブルを避ける日本と、自らの権利を主張するアメリカ、どちらが暮らしやすい社会なのだろうか?