前回の記事で紹介したように、先日タイに行った際、タイ人の”ピー信仰”を知り、精霊、妖怪、お化けの類をお年寄りから若者まで根強く信じられている光景を目にした。そこでタイのオカルト系の話や不思議な話に興味を持って色々と調べてみると……私が当連載でもたびたび書いている沖縄にも同じような話があることに気づいた。タイと沖縄、実は深~いつながりがあったのだ。

 

■太古から現代にまで至るタイと沖縄の関係

首里城

火災で焼失。現在は再建中の首里城。交易国家・琉球王国の象徴だ。

画像:663highland, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 沖縄とタイの関係は、実は古くからある。かつて沖縄は1429年(正長2年/永享元年)から1879年(明治12年)までの約450年間、「琉球王国」として存在した国家であった(注1)。琉球王国は中国や日本、東南アジア諸国と活発な交易を展開しており、琉球王国として統一される以前から、朝貢先の中国を除き最も有力な交易相手が当時のシャム国(タイ)であったという(注2)

注1/1972年(明治5)の明治政府による琉球藩設置をもって琉球王国に幕が下りたという説もある。

注2/歴史学者の高良倉吉氏は『アジアのなかの琉球王国』で「1425年からの150年間で、琉球王国が一番多く貿易していた相手がタイだった」としている。

 

 さらに1968年(昭和43年)に沖縄本島南端の具志頭村港川(現在の八重瀬町字長毛)で発見された港川人は、骨格を調べると5万〜1万年前に東南アジアから島伝いに遠くオーストラリアまで広がった集団に由来したのではないかとされている。

港川人

沖縄本島の南端、具志頭村港川で発見された2万~2.2万年前の港川人の頭蓋骨。

画像:Saigen Jiro, PD, via Wikimedia Commons

 つまり、現在の琉球人の祖先とも考えられる港川人は、もしかしたらタイとの関連性もあるかもしれないのだ。そうなれば、沖縄とタイのつながりは数万年レベルのものになる。

 

 また、沖縄の地酒として知られる泡盛は、大正の末期から昭和にかけて輸入されたタイ米(インディカ米)が今も原料として使われている。太古の歴史から現在まで、実は沖縄とタイは深い結びつきがあるということだろう。

 

■なんくるないさーとマイペンライのお国柄以外にも…

ローイクラトン
タイのローイクラトン(灯篭流し)の風景。こうした昔ながらの信仰や風習が大事にされているところも共通点。

 私が初めて沖縄に訪れたのは2003年。その翌年、初めてタイに行ったとき「沖縄に雰囲気が似ている」と感じたのを今でもよく覚えている。それはタイの寺院と首里城の色使いだったり、沖縄人の口癖である「なんくるないさー(なんとかなる)」とタイの「マイペンライ(問題ない)」など、前向きな言葉が好きな性分か。どちらにせよ、今も必ず毎年訪れるのはタイと沖縄だけだ。

 

 話を戻そう。前述の通り、タイではピー信仰が今でも根強く存在しているが、沖縄でも妖怪との結びつきが深いとされる。たとえば、今年の7月〜9月にかけて沖縄本島中部の読谷村にあるアミューズメントパーク『体験王国むら咲むら』では、「〜夏のよみたん夜あかりプロジェクト〜琉球妖怪2023」というイベントが開催されていた。こんな大々的な妖怪イベントが開催されるほど、沖縄の人々に妖怪は愛されているのだ。

 

石敢當

マジムン避けとして沖縄各地で見られる「石敢當」。

画像:Ken FUNAKOSHI from Yokohama, Japan, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons

 また、沖縄では妖怪のことを「マジムン」と呼び、昔からこのマジムンにまつわるさまざまな伝説や怪談、妖怪の存在が語り継がれている。たとえば、連載第13回で書いた、那覇のゲストハウスに出没する沖縄版座敷わらし“キジムナー”もその一種だ。それほど、沖縄で妖怪の存在は身近にあるのだろう。

 

■タイと沖縄で共通する「占い好き」気質

 続いて、共通点として上げられるのが“占い好き”ということだ。タイでは有名な占い師が全国におり、結婚式の日取り、子どもの名付け、投資アドバイス、家の購入時期、旅行の時期など、ありとあらゆることを決めるときに占ってもらう。前回の記事に書いた「ルーク・テープ人形」は霊能者や僧侶に祈祷してもらうことで“幸運を招く”としてブームに火がついた。いかにタイ人が占いや呪術への信仰が根強いかがわかる。

 

ユタ

沖縄ではさまざまな場面でユタが頼りにされている(写真はイメージ)

画像:Shutterstock

 沖縄にもよく似た風習がある。私自身も今年9月に占ってもらった沖縄の霊媒師・ユタ。沖縄でも運勢や結婚や妊娠、さらに家族や先祖供養のことまでユタに相談する人も少なくはない。連載第15回で取材した際、

「ユタの中には偽物も少なくはなく、ユタを怖がるウチナーンチュ(沖縄の人)もいる」

 という声もあったが、私の印象では半分くらいの人がユタを信じていると感じている。その理由は沖縄出身の知人にこんな話を聞いたことだ。

 

「弟が中学でグレたとき、ユタに相談したんです。沖縄では魂を『マブイ』『マブヤー』と呼び、子供が怪我をしたり悪さをすると『マブヤーを落としたから』と言われることがあります。そのため、弟が問題を引き起こしたのも、ユタによればそのせいだと。その後、ユタの言うとおりに弟がマブヤーを落としたとされる場所に行き、マブイグミーを行なって解決しました」

 

 マブイグミー(マブイグムイ)とは魂(マブヤー)を身体に戻すことを指す。一般的な方法としては落とした場所に行き、

「まぶやー、まぶやー、うーてぃくーよ(魂よ戻ってきなさい)」

 と言いながら、魂を身体に戻すような動きをする。

 

■「魂を呼び戻す儀式」はタイにも!

タイのシャーマン

タイ族の社会でも祈祷師は重要な位置を占める(写真はイメージ)

画像:Shutterstock

 このマブイグミー、つまり「魂を呼び戻す儀式」は、タイと沖縄のもうひとつの意外な共通点だったのだ。記事をまとめるのに色々調べていると、実は、タイ・中国・ラオス・ミャンマー・ベトナム・インドなど6カ国にまたがって暮らす「タイ族」にも、似たような儀式があることがわかった。

 

 そもそもタイ族では、沖縄と同じように「体や心の具合が悪くなったのは、魂が離れてしまったからだ」という考え方があるという。で、そんな時はやはり祈祷師や僧侶に頼んで魂を呼び戻してもらうのだ(知人の弟のように「グレた」場合もそうなのかもしれない。たぶん)。

タイのシャーマン

タイ族のシャーマンの儀式の様子。沖縄と共通するある要素が…… 。

画像:Per Meistrup, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 またタイ族の考え方では、一生のうち少なくとも生まれたときと臨終間際の2回、誰もが必ず「魂呼びの儀式」を行なうのだそうだ。子どもが生まれたときは生後3日に必ず魂呼びの儀式を行なう。これは誕生を祝い祖先の魂に報告する意味もあるが、体に魂を定着させ、あちこち離れてしまわないようにするためだという。

 

 他にも結婚前の花嫁や、病気にかかっている人を早く治すためにもこの儀式を行なうそうだ。そして、魂を飛び戻すのは必ず祈祷師や僧侶など霊的能力がある人が行なうと決められており、タイ族の精神生活において祈祷師は神様の世界と現世の私たちを結び付ける存在と考えられている。このあたりも沖縄のユタと似ているといえるだろう。また、面白いのは儀式の際は「お酒と豚肉」を捧げるそうで、これもまた「豚肉文化」の沖縄との奇妙な共通点だ。

 

 筆者カワノが愛するタイと沖縄に存在したオカルトというかスピリチュアルな共通点。たびたび呼ばれるように通ってしまうのも、魂が呼ばれていたからか……?

 

【参考資料】
『アジアのなかの琉球王国』(歴史文化ライブラリー)高良倉吉・著/吉川弘文館
「タイ族の魂呼び儀式とは」(ベトナムの声放送局/2018年3月12日記事)
「世界はことばでできている【タイ語】第2回~多様なタイ族」京都文教大学・日本学術振興会特別研究員 伊藤悟・著/駿河台出版社HP/2017年5月26日記事)