■ヤーヤーヤー石油危機がやってくる!
さて、「成長の限界」にはこう書いてある。
「現在の消費量とその増加率を前提とすれば、大多数の重要で再生不可能な資源は、今から100年のうちに非常にコスト高なものになってしまうであろう」(同書日本版 、52ページ)
ローマクラブでは、各種資源について静態的耐用年数の算出を行った。静態的耐用年数というのは、その時点で掘っている石油の埋蔵量を予想し、その量をその時点の使用量で単純に割ったものだ。それが石油の場合、31年だった。この数字が「30年で石油がなくなる」という話の出どころだ。
この報告書が発表された翌年、1973年10月にオイルショックが起きた。第4次中東戦争の影響で、中東の原油公示価格が70%引き上げられたのだ。わずか2カ月で5倍に跳ね上がるという無茶苦茶な原油価格の上昇は、そのまま物価高騰につながり、日本でも急速なインフレが進んだ。これが第一次オイルショックで、このパニックと「成長の限界」が結びつき、石油が30年でなくなるという話が一気に広がったらしい。
■誰もそんなこと言っていません!
ただし、当時ローマクラブに関係していた方に聞いた話だが、実は、ローマクラブとして「石油がなくなる」と言ったことは一度もないそうだ。
というのも、前出の「静的耐用年数」の計算で埋蔵量の根拠として使われたのは、あくまで、「当時、掘られていた」油井の埋蔵量であって、つまり、対象となったのは地上の掘りやすいところにあった油井だ。当時は技術的に難しく、ほぼ手つかずだった海底油田はカウントされていないし、天然ガスやシェールガスも勘定に入っていない。
つまり、「30年後に(地球上すべての)石油が枯渇する」のではなくて、30年後には、今掘っている、掘りやすい場所の油井はほぼ掘り尽くされ、海底油田や掘削困難な地域の油田開発が必要になる。そのため、「(掘るためにはコストが恐ろしくかかるようになり)原油価格は何十倍も高くなるだろう」というのがローマクラブの見解だった。
現実はどうだったか? 「成長の限界」が発表された1972年に1バレル2~3ドルだった原油価格は、30年後、2000年に入ってから右肩上がりに上昇し、2008年には史上最高値である1バレル147ドルを超えた(注3)。
注3/石油市場の指標のひとつであるWTI(テキサス産軽質油)の先物価格
ローマクラブの予想は当たったわけだ。石油がなくなるから石油の値段が上がっているわけではなく、掘れなくなるから価格が上がる。現在のガソリン価格が高いのは、石油の枯渇を隠す陰謀ではなかったらしい。