■ヤーヤーヤー石油危機がやってくる!

50年前、すでにこのままでは資源も食料も水も地球上の人類を賄うことは不可能になると“予言”していたローマクラブ 画像:Wikimedia Commons

 さて、「成長の限界」にはこう書いてある。

 

「現在の消費量とその増加率を前提とすれば、大多数の重要で再生不可能な資源は、今から100年のうちに非常にコスト高なものになってしまうであろう」(同書日本版 、52ページ)

 

 ローマクラブでは、各種資源について静態的耐用年数の算出を行った。静態的耐用年数というのは、その時点で掘っている石油の埋蔵量を予想し、その量をその時点の使用量で単純に割ったものだ。それが石油の場合、31年だった。この数字が「30年で石油がなくなる」という話の出どころだ。

 

 この報告書が発表された翌年、1973年10月にオイルショックが起きた。第4次中東戦争の影響で、中東の原油公示価格が70%引き上げられたのだ。わずか2カ月で5倍に跳ね上がるという無茶苦茶な原油価格の上昇は、そのまま物価高騰につながり、日本でも急速なインフレが進んだ。これが第一次オイルショックで、このパニックと「成長の限界」が結びつき、石油が30年でなくなるという話が一気に広がったらしい。

 

■誰もそんなこと言っていません!

 ただし、当時ローマクラブに関係していた方に聞いた話だが、実は、ローマクラブとして「石油がなくなる」と言ったことは一度もないそうだ。

 

 というのも、前出の「静的耐用年数」の計算で埋蔵量の根拠として使われたのは、あくまで、「当時、掘られていた」油井の埋蔵量であって、つまり、対象となったのは地上の掘りやすいところにあった油井だ。当時は技術的に難しく、ほぼ手つかずだった海底油田はカウントされていないし、天然ガスやシェールガスも勘定に入っていない。

 

 つまり、「30年後に(地球上すべての)石油が枯渇する」のではなくて、30年後には、今掘っている、掘りやすい場所の油井はほぼ掘り尽くされ、海底油田や掘削困難な地域の油田開発が必要になる。そのため、「(掘るためにはコストが恐ろしくかかるようになり)原油価格は何十倍も高くなるだろう」というのがローマクラブの見解だった。

 

 現実はどうだったか? 「成長の限界」が発表された1972年に1バレル2~3ドルだった原油価格は、30年後、2000年に入ってから右肩上がりに上昇し、2008年には史上最高値である1バレル147ドルを超えた(注3)
注3/石油市場の指標のひとつであるWTI(テキサス産軽質油)の先物価格

 

 ローマクラブの予想は当たったわけだ。石油がなくなるから石油の値段が上がっているわけではなく、掘れなくなるから価格が上がる。現在のガソリン価格が高いのは、石油の枯渇を隠す陰謀ではなかったらしい。