■石油は宇宙からやってきた?
さらにロマンあふれる石油の起源説もある。ロマンといえば、そう宇宙だ!
2017年、土星探査機カッシーニは土星の衛星タイタンに接近した。タイタンはマイナス180度の極寒の衛星で、液化したメタンとエタンの湖があった。プラスチックの粉末が砂丘を作り、有毒性のビニールが雨となって降り注いでいることが確認された。こんなわけのわからん環境なので、当然、タイタンには生物がいない、いたとしても地球上の生命とはまったく構造の違う生命体だろう。
となれば、有機物(≒生物)由来は考えられない。ただ、メタンは炭化水素を含む。炭化水素は石油の主成分だ。有機物がなくても炭化水素は作られ、恐らく石油も作られる。
宇宙起源説は、「タイタンのような無生物の星で炭化水素が見つかっているのだから、地球でも同様に無機物から炭化水素は合成され、石油が作られているのではないか?」と主張する。確かにこれは一理ある。
さらに、隕石を分析すると微量ながら炭化水素が見つかることがある。そこで隕石などで石油もしくは炭化水素が地球にもたらされたとする意見もあるが、さすがにこれは、どう考えても飛躍し過ぎで証拠も何もなさ過ぎる。
■結局、石油はなくなるのか無限にあるのか
有機起源説と無機起源説は、そのまま陰謀論に直結する。
典型的なものは、「石油メジャーが原油価格を維持するために石油は有限な資源とする有機起源説を広め、無限に生成されるとする無機起源説を圧殺した」というもの。また、これとは逆に、自由主義社会の生命線である石油価格を暴落させるため、共産主義国が意図的に無機起源説を広めようとしたという陰謀論もある。
最近の流行りは気候変動で、ロックフェラーといったオイルメジャーが御用学者を雇い、
「気候変動の原因は人間とは関係ない! 海からの二酸化炭素に比べたら人間の活動など誤差。原油を目の敵にしているのは共産主義者の陰謀だ!!」
という情報を流しているという陰謀(ややこしいな)。
それから、無機起源説のことはみんな知っているんだけど、わざとトンデモ学説だという話にしていて、いずれ時が来て中近東をつぶす時が来たら、一気に表に出して原油価格を暴落させるとか……エネルギー関係はそういうキナ臭い話が多く、たとえば、京大の名誉教授が大阪で人口石油の実証実験をやっているが、その技術を中国が買いに来ていて……なんて話もあって、陰謀論と世界の真実と嘘と真が絡まり合ってややこしいかぎり。
……さて、石油はあるのかないのか、どっちだ?
■日本が産油国になる日はやってくるのか?
最後に財団法人日本エネルギー研究所主任研究員の中島敬史氏が独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の「石油・天然ガスレビュー」(2005年05月号)に寄稿した「無機起源石油・天然ガスが日本を救う!?」の一節を紹介しておこう。日本のエネルギー資源問題についての専門機関の専門誌での、バリバリの専門家の発言だ。
「新しい視点で日本列島を再評価することにより、我が国に新たな石油・天然ガス資源の発見を導くのではないか。(中略)将来我々は限りなく無尽蔵に近い石油・天然ガス資源の存在を再認識することになるかも知れない。(中略)深部探鉱に対する投資が不可欠である」
無機起源説を否定も肯定もせず、可能性にトライしようという、実にロマンある発言だ。
火山大国である日本列島は、考えてみればマントルに一番近い島である。マントルが足の下でぐつぐつしているからの火山であり、地殻が動くからの地震大国なのであって、もしかしたら掘ればどこでも無機物起源の石油が湧いて出るのではないか? 基盤岩油田こそ日本が狙うべき資源ではないか?
未来はいつも可能性だ。もしかしたら次の世代の理科の教科書には「日本の石油は地下マントルから無限に湧き出ています」と書かれるかもしれない。
「石油の無機起源説に関する最近の進展」中島敬史/『石油技術協会誌 第80巻第4号』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt/80/4/80_275/_pdf
「米国石油地質家協会(AAPG)研究会議『石油の起源、無機起源か有機起源か』に出席して」中島敬史/一般財団法人 日本エネルギー経済研究所レポート2005年7月掲載
https://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1107.pdf
「無機起源石油・天然ガスが地球を救う?」中島敬史/『アナリシス』vol.39 No.3/2005年5月
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/0/609/200505_013a.pdf