2023年10月初め、東京・歌舞伎町の大久保公園周辺で「立ちんぼ」が問題となる中、警視庁は2023年1~9月までに売春防止法違反容疑で20代から40代の女80人を摘発したことを発表した。

 

  昨今、問題視される歌舞伎町の立ちんぼだが、一昔前までは外国人娼婦がほとんどだったことはわりと有名な話である。今回は、そんな立ちんぼにまつわる不思議な話をご紹介しよう。

 

■旅好きライター・ヤマキさんが出会ったのは……

歌舞伎町でヤマキさんが出会ったタイ人女性、レックちゃんとは……

 古くからの友人にヤマキさん(仮名)という人がいた。年齢は50代で、十数年前ほどに旅好きライター同士の交流会で知り合った。共通点はアジアの夜遊びが好きということだ。

 

 ヤマキさんは当時、新宿で一人暮らしをしていた。普段は都内で仕事をし、ある程度、貯金ができたらタイやフィリピンなど東南アジアに行って長期滞在をする。今では円安や世界的な物価上昇やビザの関係で難しくなったが、当時はそうやってアジアに「外こもり」するアジア好きのオッサンは多かった。

 

 そんなヤマキさんが、新宿に戻ってくると必ずしていた遊びがあった。それは歌舞伎町の立ちんぼと仲良くなることだ。現在はすっかり日本人に占領されてしまったが、当時は歌舞伎町の立ちんぼスポットの中心地といわれたハイジア周辺に外国人の立ちんぼが多く立っていた。

 

 中国、東南アジア系、アフリカ系など様々な国の女がいたが、中でもヤマキさんのお気に入りはタイ人の立ちんぼだ。

 

「大久保にタイ人の立ちんぼ達が住むアパートがあって、そこによく遊びに行ってたのよ。女の子が4~5人で住んでいて、よくソムタム(青パパイヤのサラダ)とかカオパット(タイ風チャーハン)とかご馳走になったなぁ」

 

 

■歌舞伎町に立っていたタイ女性・レックちゃん

ヤマキさんとレックちゃんはたまに一緒に食事をする仲だった

 そんなヤマキさんはある日、一人のタイ人の女の子と知り合うこととなる。名前はレックちゃんといい、タイ語で小さいという意味を持つ。タイ人は本名が長いため、名前の一部や本人の特徴からとったニックネームで呼ばれるのが一般的。レックちゃんもその名の通り、小柄で可愛らしい子だったとヤマキさんは話す。

 

 レックちゃんは当時25歳で、普段はタイ料理屋で働いていた。小遣い欲しさに時々、歌舞伎町の街に立っているところをヤマキさんに声を掛けられて、仲良くなったのだ。ヤマキさんがレックちゃんとホテルに行ったのは最初の1回きりで、その後は顔見知りというか友だちのような関係が続いた。

 

 歌舞伎町でヤマキさんが一人で夕飯をとるときに、レックちゃんを見かけたら声を掛けてご馳走してあげていた。面倒見がよく、一人で食事をとるのが嫌いなヤマキさんにとっても都合がよかったのだろう。

 

 

■急に街から姿を消した彼女と偶然の再会

姿を消したはずのレックちゃんと歌舞伎町で再会したヤマキさん

(写真はイメージ)画像:Shutterstock

 そんな生活が半年ほど続いた頃だろうか。ある日を境に、レックちゃんを町中でさっぱり見かけなくなった。当時はSNSもない時代、気軽に連絡先を交換できる方法もなかったため、ヤマキさんは彼女の連絡先を知らなかった。ましてや、2人は恋人関係ではない。

 

 ヤマキさんはレックちゃんの同居人も何人か顔見知りではあったが、深入りしてまで聞くことではないだろうと思った。こうしてヤマキさんはふたたび、一人で夕飯をとる生活に戻ったのだ。

 

 レックちゃんが姿を消して2、3ヶ月ほど経った頃、ヤマキさんはたまたま一人で入った居酒屋でレックちゃんの姿を見つけた。彼女も一人でいたため、思わず声を掛けたヤマキさん。久しぶりに一緒に飲み、2時間ほど盛り上がったという。

 

「また、歌舞伎町にいたら声掛けるからさ。たまには飯でも食おうよ」

 

 ヤマキさんがそう言うと、レックちゃんは少し寂しそうに首を縦に振ったという。

 

 

■彼女の友人たちから思わぬ証言が

 それから、ふたたびレックちゃんを歌舞伎町で見かけることはなくなったという。ヤマキさんはその後、ふたたびアジアへ出向き、3ヶ月ほど滞在した。その後、帰国していつものように歌舞伎町を歩いているとレックちゃんの友人達が街に立っていたので話しかけてみた。しばらく雑談をした後、ふとこんなことを聞いてみたという。

 

「そういえば、レックちゃん元気? 最近、見かけないね」

 

 すると、友人達は顔を見合わせた後、少し言いづらそうにこう言ったという。

 

「レックなら半年前に亡くなったよ……」

 

「………え?」

 

 友人の話によると、レックちゃんにはタイに恋人がいたそうだ。しかし、この恋人は全然働かない男でレックちゃんが住んでいたタイのアパートに転がり込み、ほぼヒモ状態だったという。レックちゃんは田舎の両親の仕送りをするために日本に出稼ぎに来ていたが、恋人の生活費も稼がなくてはいけないため、歌舞伎町で立ちんぼをしていたのだ。

 

 そして半年前、タイに一時帰国したレックちゃんは彼氏と口論になった。そのとき、勢いで家を飛び出したレックちゃんはそのまま道路に飛び出してしまい交通事故に遭った。何日か意識不明の状態が続いたが、その後亡くなった……というのだ。

 

■ヤマキさんの前に現れた彼女は……

ヤマキさんは「今でもタイに行く度にレックちゃんの姿を探してしまう」と語った…

 ヤマキさんは耳を疑った。じゃあ、3ヶ月前に居酒屋で会った彼女は一体、何だったのか……。

 

 これは完全に筆者の憶測だが、もしかするとレックちゃんは日本で優しくしてくれたヤマキさんに感謝の気持ちがあったのかもしれない。それで、ふたたびヤマキさんの前に姿を現したのだとしたら……。

 

「もしかすると、レックちゃんはずっと俺にSOSを出していたのかもしれないね」

 

 そう語るヤマキさんの横顔はどこか寂しそうだった。歌舞伎町の立ちんぼにまつわる少し物悲しくもあり、優しい話を聞いた気がした。