日本有数の繁華街、名古屋・栄。きらびやかな街並みの陰で地元住民が「あそこは……」と声を潜めるエリアも一部に存在する。たまたまそんなエリアにあった格安ホテルに泊まることになったカワノアユミ。しかも奇妙なことに、なぜか担当編集も引き寄せられるように同じホテルを予約していて……。
(格安だけど不気味なホテルの詳細については前編から)
■おいおい、「大島てる」にも載ってるじゃん!
担当がチェックインをしている間、私は部屋でスマホを見ていた。先ほど、タクシーの運転手が言った言葉がどうしても引っかかるのだ。ホテル名が何回も変わるなんてあるのだろうか。調べてみると、これまでに5回ほど名前が変わっていることがわかったのだ。
さらに、事故物件サイトとして有名な「大島てる」のマップには、この ホテルで起こったことがバッチリ載っていた。詳細は伏せるが、数年前にこのホテルで女性の飛び降り自殺があったようなのだ。
「──ということが、あったらしいんです……」
その後、待ち合わせをした担当に伝えると、彼は青い顔をしてこんなことを打ち明けてきた。
「実は、さっき部屋のベッドの下でこんな物を見つけたんですよ……」
■ビビりの編集担当が手にしていたモノ
担当が手にしていたのは女性物の靴下だった。チェックインした彼は部屋に入り、トイレに入った。すべて脱がないと用を足すことができないという担当はスーツのズボン、パンツ、靴下を脱いでトイレに座った。
イラナイ情報だな……と思いながら話を聞く。そしてトイレから出ると、自分の靴下が見当たらないことに気付いた。そして、トイレのすぐ外にあったベッドの下を覗いてみると、なぜか女性物の靴下を見つかったというのだ。
「その『自殺があった部屋』って俺が泊まってる部屋じゃない? その女が飛び降りる前に靴下を脱いだんだ……」
飛び降りる前に靴を脱ぐのは聞いたことがあるが、靴下も脱ぐものか……? そもそもその靴下って前の宿泊客が呼んだデリヘル嬢が忘れたものでは……。そんな他愛ない話をしつつ、この日はホテル近くのスナックで深夜まで飲み明かしたのだった。
■真夜中、筆者の部屋を訪れたモノは……
その日の夜、一人で部屋にいた私は飛び降り事件のほかに何が起こっていたのか調べていた。だが、過去のホテル名で調べてみても一切、出てこない。ネットニュースは古い記事は残っていないことが多い。掲示板などのログを探れば調べられないこともないが、時間がかかる。諦めた私はそのまま寝落ちしてしまった──。
……コンコン。
深夜、ふと聞こえた音で目が覚めた。誰かがドアをノックしているようだ。だが、眠すぎて体が動かない。
……コンコンコン!!
その後もノックは鳴りやまない。まさか……飛び降りた女性の幽霊……? それとも……。……まさか。いやいや、きっとデリヘル嬢が部屋を間違えているのだろう。
(頼む、デリヘルであってくれ!!!!)
そう心の中で叫び、布団にもぐった。そこから先のことは覚えていない。翌朝、目が覚めると室内に変わった様子はなかった。昨夜のことは夢だったのだろうか……?
■筆者を襲った不可解な現象!
そういえば、担当はどうしているのだろうか。昨夜の出来事をメッセージで送ってみると──。
「実は、とんでもないことがあって朝のうちに東京に戻ったんですよ……。あんな恐ろしい部屋に泊まったの初めてですよ……」
何があったのかを聞いても、「思い出したくない」とか「あとで整理できたら話します」とか、言葉を濁すばかりで要領を得ない。結局、担当はそれ以上何も教えてくれなかった。一体、彼の身に何が起きたというのだろう。
さらにその翌日、私の身にも不調が起こった。右目の瞼(まぶた)が恐ろしいほど腫れあがったのだ。季節的に花粉症のはずもなく、いまだに原因は皆目見当もつかない。しかも、さらにその翌日には、何事もなかったように腫れが収まったのだ。
これはホテルで起こった怪異の”後遺症”なのか、それとも”何か”が憑いてきてしまったのか……?
■怪異の謎解きを依頼したものの……
編集担当が語った(いや、語らなかった)「とんでもないこと」に、深夜、わたしの部屋を訪れた”なにか”、そして、原因不明の右目の腫れ……ここまで揃うと不気味で仕方がないが、私も担当も霊感はないので、よく分からない。
そこで、同じ電脳奇談で京都にまつわる怪奇談を連載をしているライター倉本菜生氏にこの話をしてみた。実は倉本氏、さるお寺の跡取りで、霊感あるタイプなのだ。とりあえず、ネットに載っているホテルの画像や私が撮影したホテルの写真を送ってみたところ、すぐに「体調が悪くなった……」との返信があった。
え、ちょっと待って! 写真送っただけでなんか怪異が起こるレベルなの、あのホテル? 気になって仕方ないので慌てて倉本氏に電話したのだが、
「あの……カワノさん、もしかして、そのホテルって──」
と話しかけた倉本氏の言葉を遮って、
「ごめん! やっぱり、言わないでもらっていいすか?」
と言ってしまった。何か電話の横で女の声が聞こえたとか、ノイズが入ったとか分かりやすい怪異が起こっていれば、オチとしてはいいのだろうが、べつに何が起こったわけではない。ただ……、なんとなくだが「それ以上聞いてはいけない!」と頭の中で警告が走った気がしたのだ。
もし、あの時、そのまま話を聞いていたら、また別の怪異が降りかかっていたのだろうか……。