■日本人に花粉症が多いのはネアンデルタール人のせい!?

花粉症の女性

花粉症はネアンデルタール人由来らしい。日本人に花粉症が多いのはそのせいかも?

画像:Shutterstock

 こうした遺伝子から人種や民族のルーツや近縁を探る研究で、意外な事実が明らかになっている。なかには、これを読んでいるあなた、特に花粉症の方には深く関わるものもあるのだ。

 

 人間の免疫を担うタンパク質「TLR」を作る遺伝子に、ネアンデルタール人とデニソワ人由来の遺伝子群がある(注3)。そして、この遺伝子を持っている集団をヨーロッパ、アジア、アフリカで探したところ、一番多く持っていたのが日本人だったのだ。なんと、日本人の51パーセント、つまり、二人に一人が持っているらしい。

注3/Toll Like Recceptor(トル様受容体)の略。様々な病原体にいち早く反応する自然免疫の働きを担う。なお、TLR1,TLR6、TLR10と呼ばれる遺伝子がネアンデルタールおよびデニソワ人由来とされる。

 

 そして、日本人に花粉症が多いのは、この遺伝子のせいらしい。ネアンデルタール人の遺伝子のせいでTLRが多く、花粉に過剰に反応してしまうのだ。ただし──、

 

「日本人はネアンデルタール人の優れた遺伝子を世界で一番多く受け継いでいるのか。やっぱ日本スゲー――!」

 

 などと早とちりしないように。あくまでTLR遺伝子が多いというだけで、これ以外のネアンデルタール人に由来する遺伝子が多いわけではない。また、ネアンデルタール人由来の遺伝子が、われわれ現生人類に危険な影響を与える可能性もあるのでご用心だ。

 

 たとえば、コロナの重症化リスクを3倍も跳ね上げるネアンデルタール人由来の遺伝子も見つかっているのだ。この遺伝子、南アジア人の50パーセント、ヨーロッパ人の16パーセントが持っているが、日本人を含む東アジア人には見つからなかったという。日本でコロナの被害が案外と小さかったのは、ネアンデルタール人のこの遺伝子が日本人に遺伝しなかったからかもしれない。

 

■知能レベルも高かったネアンデルタール人

ネアンデルタール人の描いた壁画

スペイン・カンタブリア州のラ・パシエガ洞窟で発見されたネアンデルタール人による壁画

画像:Hugo Obermaier, Public domain, via Wikimedia Commons

 さて、われわれの中に遺伝子は残しているものの、ネアンデルタール人もデニソワ人も今はいない。滅びてしまった。今の地球に残っているのはホモ・サピエンスだけだ。なぜ彼ら旧人は滅びたのか?

 

 ネアンデルタール人は石器を作り、毛皮で衣服を作り、靴を履き(靴の跡が見つかっている)、ネックレスなどで身を飾った。葬儀を行ない、洞窟の壁に絵を描いた(スペインのラ・パシエガ洞窟などで発見されている)。知能レベルはホモ・サピエンスと大差ないのだ。

 

 しかも、ネアンデルタール人の脳の容量は1500~1600ミリリットルで、ホモ・サピエンスの1400~1500ミリリットルよりも大きい。ちなみに現代人の脳の容量は1300~1400ミリリットルなので、脳が大きいから賢いというわけではないのだが。

 

■多様性を失った人類

人類の進化のイメージ
なぜホモサピエンスが覇者となり、他の人類は絶滅したのか? その理由はわかっていない。 画像:いらすとや

 猿人や原人、旧人の化石は毎年見つかっており、そのたびに人類史は書き換わっている。

 

 ホモ・サピエンスが誕生したのは20万年前というのが現在の定説だ。しかし、モロッコでは31万5000年前の人骨が見つかっており、最古のホモ・サピエンスである可能性が高いらしい。確定すれば、ホモ・サピエンスの“誕生日”は10万年ほどさかのぼることになる。

 

 人類がアフリカではなく、ヨーロッパで生まれたという「ヨーロッパ起源説」も登場している。猿人の前の段階、チンパンジーなどと同じ類人猿、いわば”プレ猿人”の870万年前の化石がヨーロッパで見つかったのだ。

 

 この“プレ猿人”がヨーロッパで誕生し、アフリカに渡って猿人へと進化したという筋立てだ。

 

 日々書き換えられる人類史だが、確実に言えるのは、現在、地球に残った人類はただ一種のみだということだ。私たちが私たちになるあいだに、ほかの人類は、巨人族もホビット族もネアンデルタール人もすべて死に絶え、私たちは多様性を失なった。

 

 新しい人類進化の姿は私たちに問いかける。なぜお前たちなのだ?

 

 

【参考文献】
『直立二足歩行の人類史』(ジェレミー・デシルヴァ/赤根洋子 文藝春秋社)
『我々はなぜ我々だけなのか』(川端裕人 講談社)
『絶滅の人類史』(更科 功 NHK出版)
『別冊日経サイエンス 人類の起源と拡散』(日経サイエンス社)