■肥満は俺のせいじゃない。デブ菌のせいだ!?
脂肪をとるとなぜ太るのか? 生物の授業や保健体育では、消費されなかった脂肪が脂肪細胞に蓄えられるからと習ったはずだ。ところが最新の科学によると、腸内細菌も肥満に関係しているという。脂肪をとり過ぎると腸内細菌が死んで毒素が発生、そのせいで肥満が加速するらしい。
脂肪を大量にとると、脂肪を分解するために胆汁の分泌が増える。すると腸内細菌のうち、胆汁に強い菌は生き残り、腸内細菌のバランスが崩れる。腸内細菌のバランスが崩れると腸壁のバリアに穴が開く。弱い菌は死んでエンドトキシン(中編で紹介したサイトカインとは別の物質。炎症物質は種類が多い)という炎症物質を放出し、エンドトキシンは腸壁から血液中に侵入、全身で炎症を起こす(※2)。
※2 「腸内細菌叢と肥満症」(入江潤一郎、伊藤裕 日内会誌 104:703~709,2015)
では、脂肪を食べさせていないマウスにエンドトキシンを与えるとどうなるか? マウスに少量のエンドトキシンを与え続ける実験を行なったら、「高脂肪食摂取マウスと同様の肥満、インスリン抵抗性および耐糖能異常」が起こったのだ(※2)。
脂肪の摂り過ぎは体中に炎症を起こし、不健康な体がさらに肥満を進める悪循環が起こるわけだ。
■食べられないものも栄養に変えて太る!
腸内細菌そのものの違いでも肥満は起こる。
無菌マウスに普通のマウスと肥満マウスから糞便移植(前編参照)を行なったところ、肥満マウスから移植されたマウスは太り始めた。食事の量は変わらないにもかかわらずだ(※2)。腸内細菌の中には私たちを太らせる悪魔のような菌、デブ菌がいるらしいのだ。
われわれをメタボ体形へと誘う腸内細菌とは、いったいどんなヤツなのか? その説明の前に一つ質問。「人間は草食動物ではないので、繊維質は消化できない」と生物の教科書で教わった“常識”を覚えているだろうか? 「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれないが、これが間違いだったという。
最新の研究で判明したのだが、実は、人間の腹に棲む腸内細菌の中に繊維を分解する菌がいたのだ。細菌は繊維質を分解し、腸から吸収できるように短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸、プロピオン酸など)を産出する。これが「デブ菌」の正体だ。
健常なマウスなら栄養にできない繊維を肥満マウスは栄養に変え、それが太る原因となる。欧米での研究で、こうした菌が1日におよそ140~180kcalを生み出す(※3)ことがわかった。これはおにぎり約1個分にあたる。しかも毎日だ。脂肪1キロが約9000kcalなので、およそ2カ月で脂肪が1キロ増える計算になる。デブ菌、恐るべし。
※3 「An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest」(Peter J. Turnbaugh他Nature volume 444, pages1027–1031 (2006))